2015年10月26日(月)
日本の情勢と「国民連合政府」構想について
韓国・ソウル 志位委員長の会見から
日本共産党の志位和夫委員長は、韓国訪問中の21日、現地メディアとの記者会見を行いました。会見のうち日本共産党が提案している「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」にかかわる部分を紹介します。発表にあたって、一部修正・加筆を行っています。
「国民連合政府」が実現すれば、北東アジアの平和と安定にも大きなプラスに
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志位委員長 現在の日本の情勢と日本共産党の対応についてお話しさせていただき、質問を受けたいと思います。
この間、安倍政権によって安保法制=戦争法案が強行されるという事態となりました。私たちは、この法律ばかりは、強行されたからといって、そのままにはしておくことは許されないと考えております。
戦争法には、日本国憲法第9条を破壊して自衛隊を海外派兵する仕組みが数多く含まれています。やり方の面でも、歴代日本政府が60年余にわたって続けてきた「憲法9条のもとでは集団的自衛権行使は許されない」という憲法解釈を、一内閣の専断で百八十度ひっくり返すという、立憲主義・民主主義を乱暴に破壊するやり方がとられました。私たちは、戦争法を廃止し、立憲主義・民主主義を取り戻す新たなたたかいに立ちあがろうと呼びかけています。
そして、本気でこの仕事をやろうと思えば、安倍政権のもとではできません。戦争法に反対した野党5党が力をあわせ、広範な団体、個人と共同して、新しい政府をつくる必要があります。私たちはそれを「国民連合政府」と呼んでいます。
さらに、この「国民連合政府」の実現をめざすことで一致したすべての野党が、きたるべき国政選挙で選挙協力を行い、与党――自民党と公明党を打ち負かし、安倍内閣を退陣に追い込み、新しい政府を樹立することを呼びかけています。
私たちは、ぜひこの「提案」の方向で、政党、団体、個人の広大な合意を形成し、きたるべき国政選挙で必ず勝利したいと決意しています。
私は、「国民連合政府」が実現すれば、北東アジアの平和と安定にとっても大きなプラスになると確信します。この地域に存在する歴史問題も、解決に向かって前進する道が開かれてくると考えます。
「提案」の方向での野党5党の合意は可能か?
問い 今回の日本共産党の「提案」によって野党5党の合意は本当になしとげられるのでしょうか。
志位 前途にさまざまな困難があることは事実ですが、合意する可能性はあると考えています。私は、この間、民主党の岡田(克也)代表、社民党の吉田(忠智)党首、生活の党の小沢(一郎)代表と党首会談を行ってきました。社民党と生活の党とは私たちの「提案」の方向で、大筋の方向性が共有できたと考えています。民主党の岡田代表との会談では、先方から、「思い切った提案に敬意を表する」との発言があり、同時に、政権を共にするのはハードルが高いという議論も(民主党内に)あるという発言もありました。民主党とは、誠意を持ち、互いに信頼感を持って、話し合いを続けていきたいと考えています。
野党5党は、それぞれ異なった政治的立場をもっています。しかし野党5党が一致して安保法案=戦争法案に反対してたたかったという事実があります。さらに野党5党は、通常国会の最終段階で、安倍内閣不信任案を共同で提出しました。この提出を決めた野党党首会談で、私はこう言いました。「5野党が共同して不信任案を提出するということは、もしも可決されたら連立政権を組むということになります」。論理的にはそういうことになります。こうした野党共闘は、戦争法案に反対する国民の世論と運動の大きな発展によって、可能となったものでした。
困難はあっても、粘り強く話し合えば、私は、合意することは可能だと考えています。そして野党が一致結束することができるならば、多くの国民の「政治を変えたい」という願いと相互に響き合って、大きな政治的激動がおこることは間違いありません。安倍政権を打ち負かすことも可能になってくると考えています。
「国民連合政府」が成功した場合、日本共産党はどんな役割を果たすか?
問い 本当に「国民連合政府」が成功した場合、その中で日本共産党はどんな役割を担うとお考えですか。総理大臣はどうなりますか。
志位 これはまだ先の話ですから(笑い)、総理大臣は、一般論として、第1党が担うのが一般的だとしか、今の段階ではお答えできません。
それから、日本共産党がこの政府でどういう役割を果たすのかというご質問ですが、私たちは、今回の「提案」にさいして、閣内協力か、閣外協力かという条件を最初から設定しておりません。つまり、「閣内協力でなければだめだ」ということを最初から言っているわけではありません。これは、その時の状況に即してベストな選択肢をとることになるでしょう。
「国民連合政府」は韓国とのかかわりでどういった意味があるのか?
問い いま韓国では、安倍政権については、歴史問題ですとか、戦争法などについていろいろな意見があると思うのですが、「国民連合政府」は、韓国とのかかわりでどういった意味があるのでしょうか。
志位 戦争法の問題というのは、もちろん日本国民が決めていくべき問題ですが、同時にアジアと世界にとっても重大な問題であると考えています。
日本の自衛隊というのは、今年で創設されて61年になります。しかし、これまでのところ1人の外国人も殺さず、1人の戦死者も出していません。主要国の軍隊で、このような軍隊は他にあまり例がないと思います。それは、日本国憲法第9条が存在し、この平和条項を守り生かす国民のたたかいがあり、そのもとで「集団的自衛権は行使できない」という憲法解釈が一貫してとられてきたからです。
今回の戦争法というのは、こうした日本の国のあり方を根底から変えてしまいます。米国が引き起こす戦争に、世界のどこででも、自衛隊が肩を並べて参戦することになります。たとえば、アフガニスタン戦争、イラク戦争のような戦争が引き起こされたさいに、自衛隊がまるごと参戦することになります。私は、こういう方向に日本が向かうことは、世界とアジアの平和に対する重大な逆行になると考えます。
いま一つ強調したいのは、戦争法が、私たちの住む北東アジアの軍事的緊張を高めるという問題です。北東アジアには、さまざまな緊張や紛争の火種があります。しかし、そういう問題にたいして、日本が軍事力の強化で構えたらどうなるでしょうか。相手は、さらに軍事力を増強することになるでしょう。戦争法は、朝鮮半島も含めた北東アジア地域で、“軍事対軍事”の悪循環を引き起こす、日本の側からの引き金になりかねない、重大な危険をはらんでいます。それは、北東アジアの平和と安定を考えても、まさに逆行以外の何ものでもありません。
さらに、もう一つ問題点を指摘しなければなりません。それは、安倍首相が、過去の侵略戦争や植民地支配にたいする反省を欠いているという問題です。私は、5月の党首討論で、安倍首相に問いただしました。日本が1945年の敗戦のときに受諾した「ポツダム宣言」は、日本の戦争は「間違った戦争」だという認識を明確に示している。「首相は、『ポツダム宣言』のこの認識を認めないのか」。首相の答えは驚くべきものでした。「(ポツダム宣言を)つまびらかに読んでいないので論評は差し控えたい」。そうまで言って、彼は、この戦争を「間違った戦争」だと認めることを、最後まで拒否したのです。過去の侵略戦争や植民地支配に反省のない勢力が、勝手に憲法解釈を変更して、海外に軍事力で乗り出す。これほど危険なことはありません。
今日、ソウルでこの話をさせていただいたのは、そういう理由からです。
反対運動で発揮されている力が、選挙の結果として表れるか?
問い 韓国でも戦争法に関する動きは、非常に大きく報道されているわけですけれども、日本人の平和を求める気持ちは本物なのでしょうか。いまの反対運動で発揮されている力が、選挙の結果として表れるでしょうか。
志位 それは私たち野党しだいだと思います。野党が結束してたたかう姿勢を本気で示せば、私は、無党派の方々、保守の方々、これまで選挙で投票してこなかった方々も含めて、大きな政治的変動が起こると確信しています。
いま日本で起こっている運動は、戦後かつてない新しい国民運動だと、私たちはとらえています。過去の日本での国民的大闘争ということでは、1960年の日米安保条約改定反対闘争があげられます。これは偉大な歴史的闘争でした。同時に、このたたかいは、労働組合などの動員が中心だったといわれています。いま日本で起こっているたたかいは、このたたかいとも異なって、まさに国民一人一人が、主権者として、「いま声をあげなければ」と、自覚的・自発的に立ち上がっている。しかも従来の保守・革新の枠を超えた、きわめて広範な人々が立ち上がっている。ですから法案が強行された後も、たたかいはとぎれることなく続き、発展しています。私たちは、ここに、日本の未来にとっての大きな希望を見いだしています。
この新しい国民運動のうねりを、国政を変える力とすることができるかどうかは、私たち野党の姿勢しだいだと考えています。野党が本気で結束すれば、日本の政治を変えることができます。私たちはそのための歴史的チャレンジをやっています。
日本の運動と、韓国・中国などの国民との提携、連合は可能か?
問い 今の日本の動きというのは、戦後かつてない新しい国民運動であるとおっしゃいましたが、そうした運動と、韓国や中国などの国民との提携というか、連合というのは可能ですか。そういう可能性はありますか。
志位 先ほどお話ししたように、戦争法を廃止するかどうかという問題は、何よりも日本国民が決めていくべき問題です。
同時に、もっと広く、この地域の平和と安定を築いていくという共通の目標のために、さまざまな国際的な協力や連帯ということはありうるし、大いに追求したいと思います。私たちは、戦争法に対する抜本的な平和的対案として、「北東アジア平和協力構想」(別項)を提唱しています。いかにして北東アジアに平和、協力、友好を築くかについて、韓国や中国など関係各国の政府・政党・国民と、広く対話を行い、一致点で協力をすすめたいと願っています。関係各国の国民と国民との間でも、こうしたテーマでのさまざまな意見交換や可能な協力・提携を行うことは、たいへんに大切だと考えています。
「北東アジア平和協力構想」 (1)域内の平和のルールを定めた北東アジア規模の「友好協力条約」を締結する、(2)北朝鮮問題を「6カ国協議」で解決し、この枠組みを地域の平和と安定の枠組みに発展させる、(3)領土問題の外交的解決をめざし、紛争をエスカレートさせない行動規範を結ぶ、(4)日本が過去に行った侵略戦争と植民地支配の反省は不可欠の土台となる。
柔軟に対応するなかで、従来の共産党支持の人たちから不満が生じることはないか?
問い ちょっと質問しづらい内容ですが、もしこの「国民連合政府」が実現すれば本当に大きな意味があると思うのですが、ある意味で柔軟に対応するなかで、これまでの共産党支持の人たちから不満のようなものが生じたりとか、そういった懸念や心配ということをお持ちではありませんか。
志位 私は、まったく心配しておりません。今回の私たちの「提案」は、戦争法反対のたたかいを国民とともにたたかっている日本共産党支持者や党員の方々からも、強い賛同の声で迎えられています。
私たちは、今回、こうした政府構想を「提案」することによって、党の基本政策、基本路線、基本理念を変更するわけではいっさいありません。
まず安保法=戦争法を廃止し、立憲主義を回復することを最優先させよう、そのために政府をつくろう、ただ、それを本気でやろうとすれば、野党各党間に政策の違いがあるわけですから、相違点はお互いに留保しようということなのです。
日本共産党について“ブレない姿勢”がいいという評価をよくいただきますが、この姿勢は今後も一貫してつらぬいていきます。