2015年10月18日(日)
きょうの潮流
「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目となる」。今年亡くなったドイツのワイツゼッカー元大統領が終戦40周年の記念演説で訴えた有名な一節です▼彼はそのくだりの直前にこうも語っています。「罪の有無、老幼いずれを問わず、われわれ全員が過去を引き受けねばなりません。だれもが過去からの帰結に関わり合っており、過去に対する責任を負わされている」(『荒れ野の40年/永井清彦訳』)▼いま、ナチスの戦争犯罪を告発する二つのドイツ映画が日本で公開されています。独裁者の命を狙った家具職人の人生と信念を描いた「ヒトラー暗殺、13分の誤算」。忍び寄るファシズムを追いながら音楽や自由を愛する“普通の男”を突き動かしたものを描きます▼「顔のないヒトラーたち」からは戦後ドイツの苦闘が見えてきます。良き隣人として日常生活を送るかつてのファシストたち。正義感あふれる若き検察官がその偽りと沈黙を暴く。真実を追及するあまり、親しい人たちとも対立する主人公の姿が痛ましい。アウシュビッツ裁判につながり、ドイツの歴史認識を変えていきます▼くり返し、自国の戦争犯罪と向き合い、記憶を消さないドイツ。翻って日本はどうか。日本軍慰安婦や南京大虐殺の実態を隠そうとするなど、いまだにアジアの国々との関係はとげとげしい▼あの戦争は何だったのか―。個人と国の歴史を見つめ直した節目の今年。過去に対する責任は、侵略戦争を正しかったとする安倍政権に、刃となって向かうはずです。