2015年10月11日(日)
きょうの潮流
♪母は来ました 今日も来た この岸壁に 今日も来た―。二葉百合子が歌い、大ヒットした「岸壁の母」。元は1954年に発売された歌手・菊池章子のそれでした▼当時、ソ連によるシベリア抑留から引き揚げ船で帰ってくる息子を待つ端野いせさんの姿がマスコミで取り上げられました。岸壁の母は、それを聞いた作詞家が義憤に駆られ、一気に書き上げたといいます▼来る日も来る日も生きて帰ってくることを信じて通った親たち。引き揚げ船が入港してきた舞鶴は喜びと悲しみが交錯しました。その引き揚げの町に残されたシベリア抑留の資料が、ユネスコの世界記憶遺産に登録されました▼敗戦後、ソ連軍に連行され収容所に入れられた日本人捕虜は60万とも70万とも。食事もろくに与えられず、極寒の地で奴隷のように働かされ、次々に命が奪われました。舞鶴の「引揚記念館」にある資料には抑留生活をシラカバの樹皮につづったものや、端野さんの手紙も含まれています▼同時に、中国が推薦した日本軍による南京大虐殺も世界の記憶遺産に。日本政府は、日中間で見解の相違がある、中国の一方的主張だと抗議していますが、歴史の事実は消せません。犠牲者の数に違いはあるものの、日本軍自身の行動記録や兵士の日記などによって市民を含めた大量の虐殺があったことは証明されています▼ともに戦争がいかに人間を狂気へと駆り立てるかを示す痛苦の教訓。それを記録し、記憶していく努力こそが人類の未来を保障します。