2015年10月9日(金)
きょうの潮流
「ニュートリノは、日本人のことが好きなんだろう」。長年その研究に携わってきた岩手県立大学長の鈴木厚人さんは、国際会議の場でドイツの物理学者にそう言われたことがあります▼岐阜県の神岡鉱山の地下につくられたスーパーカミオカンデ。すべての物質の根本で、宇宙創世の情報をもつ素粒子ニュートリノを観測する巨大な装置によって、日本は世界に先駆けた発見を次々と▼30年ほど前には小柴昌俊さんが超新星から飛んできたニュートリノを前身のカミオカンデで検出。今回ノーベル物理学賞に決まった梶田隆章さんは、大量に地球に降り注ぎながら何でも通り抜けてしまうニュートリノに質量があることを最初に発見しました▼ともに小柴さんの指導を受け、研究に当たってきた鈴木さんは「ニュートリノが正体のわからない幽霊粒子から、ようやく電子などのほかの素粒子と同じような性質を持つことが実証された」。無限の宇宙と極小の世界が深くつながります▼物質の起源を解くために実験をくり返してきた梶田さん。本紙ひと欄に登場した時、後進にアドバイスしています。「幅広く経験した方がよい。学問がどこで新しい突破口を開くかわからないから」▼“人類の知の地平線を拡大するような研究”をつづけてきた梶田さんたち。彼らは宇宙空間が伸び縮みすることを示す重力波の観測にも意欲を燃やします。深遠の謎に一歩一歩迫ろうとする人類。一つの星の中でいがみ合い、憎しみ合うことのなんというむなしさか。