2015年10月7日(水)
きょうの潮流
納豆はよくかき混ぜた方がおいしくなるといわれます。ネバネバに空気が混ざってまろやかさが増すと。その糸引き成分をつくっているのも微生物です▼漬物やパン、みそやしょうゆ、ワインやお酒…。人類は微生物の存在に気づく前から深く関わってきました。地球上のあらゆる環境に生息する微生物は病原菌となる一方で、科学の進歩によって感染症の予防に役立てられてきました▼「微生物がやってくれた」。ノーベル医学生理学賞を授与された大村智(さとし)さんは長年の研究対象に手柄を譲りました。いつも財布の中に小さな袋を入れ、年間2千〜3千株もの土を採取。それを培養し、分析する地道な作業をくり返してきました▼アフリカや中南米などの熱帯地方で流行し、失明する恐れがあるという感染症。今回その治療薬につながる微生物を発見したのも、静岡県のゴルフ場近くの土からでした。さまざまな生物が乗り合わせる地球号の結びつきの強さを感じさせます▼毎年3億人を救う、世界が認めた人類への計り知れない貢献。最近は日本のノーベル賞受賞者が増えていますが、研究を取り巻く環境は厳しい。国の乏しい援助で基盤となる大学は危機的な状況にあり、研究者の雇用も不安定です▼「国は地方再生などといっているが、一番やらなければいけないのは教育」と大村さん。「人に尊敬される、徳をもった生活や仕事ができるような人、そういう本当の人間を育てたい」。世のため、人のためを心にとめてきた研究者の提言です。