2015年9月9日(水)
きょうの潮流
「いかなる既得権益も、私のドリルの刃から無傷ではいられない」。世界の企業家や政治家を前に安倍首相が息巻いたのは昨年のダボス会議の場でした▼演説に冠した「新しい日本からの新しいビジョン」とはどんなものだったのか。その首相が無投票で自民党総裁に再選された日、参院の委員会では労働者派遣法改悪案の採決が強行されました。際限なく派遣労働者を使えるようにする「正社員ゼロ」法案です▼平和の実現と人間らしい労働の確立。戦後の日本や国際社会はその二つを一体に追求してきました。国際労働機関(ILO)は、1944年のフィラデルフィア宣言で「労働は、商品ではない」「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」という原則を再出発にあたって確認しています▼日本も新しい憲法のもとで民主化がすすみ、労働分野では正社員が当たり前の社会をめざしてきました。しかし、非人道的とされた間接雇用は「請負」などと称して温存され、派遣法によって復活。制限も徐々に取り払われています▼いま、安倍政権が押し通そうとしている安保法制、労働法制の大転換は、戦後日本の歩みを、すべてひっくり返そうとするもの。それは、より良い日本をつくるために努力してきた国民への挑戦です▼戦争法案反対に立ち上がっている若者たちは派遣法の改悪に対しても批判の声を上げています。ILO憲章は前文でこう明記します。「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」