2015年8月20日(木)
主張
新国立計画見直し
国民の理解得られる施設こそ
2020年の東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場整備計画が世論の批判によって白紙撤回に追い込まれたことを受け、安倍晋三政権が新たな計画づくりに向けた「基本的考え方」を決めました。政府は今月中にも総工費の上限や工期などを盛り込んだ新しい競技場の整備計画を決める方針です。国民の理解と共感が得られる計画にすることができるかどうか。安倍政権の姿勢が問われています。
不可欠な透明性の確保
政府の「基本的考え方」は、「できる限りコストを抑制」するとして工費が膨張する最大要因だった開閉式屋根の導入を見送り、屋根の設置は観客席上部のみにするとしました。施設の機能についても、コンサートもできる「多機能スタジアム」ではなく競技に限ることを原則にしました。2520億円というケタ違いの巨費を投ずるとした当初計画が、いかにコストを度外視していたかをあらためて浮き彫りにするものです。
「基本的考え方」では「アスリート第一」を掲げ、「アスリートや国民の声をよく聴き、計画の決定及び進捗(しんちょく)のプロセスを透明化する」ことも盛り込みました。当然の原則です。当初計画策定では、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)、政治家、官僚、ゼネコンなど一部の関係者で進められたといわれ、決定プロセスや情報開示がきわめて不十分だったことが指摘されていました。
無謀な当初計画に歯止めがかからなかった背景には、必要な情報を国民に知らせない事実上の“密室体質”があることは明らかです。また、建築家、スポーツ関係者、国民から見直しを求める声が相次いで出され、具体的な対案も示されていたのに、政府やJSCが多様な意見に耳を傾けようとしなかったことも重大です。
政府は新計画づくりにあたってアスリートや競技団体から意見を聴取し、国民から意見募集も始めました。競技場の規模や関連施設の設置など、多くの関係者が納得できる丁寧な議論が必要です。建設までの時間は限られているとはいえ、形だけの意見聴取に終わらせるような拙速なやり方を繰り返してはなりません。
周辺住民の生活環境を尊重し、景観への配慮を最大限払うことができるかどうかも焦点です。当初計画は、建物があまりに巨大すぎて、神宮外苑の景観とそぐわないというきびしい批判が上がっていました。できる限り低い建物にするなど、景観や自然環境などに考慮することが求められています。競技場を拡張するために隣接する都立霞ケ丘アパートを強制立ち退きさせる計画の撤回・見直しは不可欠です。住環境や住居への配慮などを求めた国際オリンピック委員会の「アジェンダ21」の精神に、いまこそ立ち戻るべきです。
民営化には不安の声
「基本的考え方」で五輪閉幕後の競技場を「民間事業への移行を図る」としたことは見過ごせません。自民党の提言に「民営」化があることの反映といわれていますが、あまりに唐突です。競技団体からも「利益が優先し、利用料など使い勝手が悪くなる」と懸念の声が上がっています。
新競技場の整備・維持費は必要最小限に抑えるとともに国が費用負担など責任をもつべきです。