2015年7月27日(月)
迷走の新国立競技場建設
森組織委会長 関わり否定するが
計画けん引 責任は重大
「あのスタジアムはもともと嫌だった」「国がたった2500億円も出せなかった不満はある」―。新国立競技場計画を「白紙に戻す」との決定後から、元首相で東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の放言が止まりません。その発言で問われているのは会長の資質そのものです。(和泉民郎)
「森喜朗古墳」―。見直しで世論が沸騰し始めたころ、ネット上で新国立競技場をこうやゆする書き込みが話題となっていました。まさに言い得て妙です。
新国立競技場建設の中心を担ってきた森会長。しかし、いま反省はどこ吹く風。むしろ自らの関わりを否定する無責任さが際立っています。
事実をゆがめる
「(新国立は)まるで私がやっているように思われていて、大変迷惑している」。22日、日本記者クラブの会見で言い放ちました。しかし、安倍晋三首相が「ゼロベースで見直す」とした17日、最後に“説得”した相手が森会長だったことからも、この発言と事実とは大きく異なります。
それを裏付ける事実があります。6月20日すぎ、下村博文文科相が計画の大幅見直しに踏み切りかけた時期があります。そのとき“壁”となったのがこの人でした。
下村文科相は森会長を訪れ、切り出しました。
「(建築家の)槇文彦さんの提案を取り入れた見直しをしたい」
その数日前、文科相は槇氏と会い、大幅に総工費を圧縮できる見直し案を確認し、ザハ・ハディド氏のデザイン断念にかじを切ろうとしました。その了承をとりつける席で、森会長の猛烈な反撃にあったのです。
森会長が挙げた反対理由は二つ。ザハ氏のデザインを変えると訴訟の可能性があるという点と、五輪招致の際、国際オリンピック委員会(IOC)総会で安倍首相がザハ氏のイメージ図で紹介したので国際公約に反する―というものでした。
いまではその根拠すら疑わしい反論に文科相は屈しました。野放図な計画をつくり、軌道修正できなかった文科省と、それを改める機会を抑えた森会長の責任はあまりに重い。
森会長は、日本ラグビー協会会長として当初から2019年ワールドカップ(W杯)招致の陣頭指揮にあたってきました。
招致の決定は09年。2年後の11年2月、「ラグビーワールドカップ2019日本大会成功議員連盟」を立ち上げ、国立競技場の再整備の決議をあげました。これが同競技場を整備する大きな契機でした。
その後、東京五輪招致が11年6月から本格化。主会場が国立競技場となる中で、改築計画が加速していきました。森会長がラグビーW杯の主会場として新国立にこだわってきた理由は、この経過からも明瞭です。
今月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議で、総工費2520億円の案を了承した際、森会長は「極めて妥当な値段だ」と強弁し、経緯を自慢げに語ってみせました。
森会長はいま、その責任を問われ始めると、手のひらを返す言動に終始しています。一連の発言、経過から見えるのは、組織委員会会長とは両立しえない姿です。
国民的監視こそ
IOCはいま「五輪アジェンダ2020」で、開催都市の負担軽減のため「運営経費の削減」とともに、「透明性の高い運営手続き」も求めています。しかし、新国立に関わる森会長の姿勢から、この理念は見えてきません。自らの言動や事実をゆがめる不誠実な姿は、国民的に不信感を広げています。
今後、官邸主導で新しい計画がつくられます。しかし、それが民意を踏まえたものになるかどうかはいまだ不透明です。文科省、JSCそして森会長のような体質を温存したままなら、前途多難です。厳しい国民的な監視がこれからも欠かせません。