2015年7月16日(木)
戦争法案 強行採決
日本を海外で「殺し、殺される国」に導く戦争法案。その強行採決は、安倍政権の戦後最悪とも言える危険性と同時に、国民による包囲が日増しに強まり、世論におびえる姿も浮き彫りにしました。
声聞かぬ独裁政治への道
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15日午後0時25分。強行採決の瞬間でした。
戦争法案を審議する衆院安保法制特別委員会の締めくくり総括質疑。各党の議員たちや記者たちが議場や傍聴席にあふれ返るほど詰め掛ける中、日本共産党の赤嶺政賢議員が「議論が根本から解明されないままに、質疑を打ち切るのは反対だ。審議を続行すべきだ」と動議を浜田靖一委員長に要求しました。
与党側が数の力で否決。その勢いで採決に入ろうと浜田委員長がマイクを握り進めようとすると、野党の議員たちは「強行採決は許さない」の紙を高く掲げ、「これが民主主義か」「審議を尽くせ」と一斉に声をあげました。委員室は「反対」「反対」コールで覆い尽くされ、与党側の拍手をかき消しました。
戦後の統治構造を壊す
戦後、これだけ国民の声を意に介さない政権があったでしょうか。
戦争法案をめぐっては、どんな世論調査でも6割以上が今国会成立に反対し、8割以上が政府の説明は不十分だと答えています。国会周辺のデモは日増しに増え、15日には数万人の人たちが国会を囲みました。安倍晋三首相自身、15日の質疑で「国民の理解が深まっていない」と認めました。前日には、石破茂地方創生担当相も同様の発言を行っています。
さらに、歴代の内閣法制局長官や防衛官僚の重鎮、改憲派を含めた憲法学者の圧倒的多数、自民党の元総裁、元幹事長も反対の声をあげています。共通するのは、歴代の自民党政権が積み上げてきた憲法解釈を覆し、戦後日本の統治構造そのものを壊してしまうという危機感です。ここに、過去の海外派兵法制にはない、重大な深刻さがあります。
民主党の長妻昭議員が総括質疑でこのような世論状況についてただし、首相はこう答えました。
「PKO法の時も、日米安保条約改定のときも反対論があった」
いずれ怒りを忘却し、反対世論は沈静化するという、国民を見下した見方です。
さらに首相はこう述べました。「選挙で選ばれた私たちは責任から逃れてはいけない。国民の命を守り、幸せな暮らしを守りぬく責任がある。確固たる信念と確信があれば、しっかりとその政策を前に進めていく」
驚くべき独善的な姿勢です。選挙で多数を得たのだから、「やりたい」と思ったことは、何をやってもいい、憲法だって壊していい―。民主主義や法治主義の基本を理解せず、独裁政治への道につながるものです。
そもそも戦争法案は、「国民の命を守る」ものなのでしょうか。逆です。日本の若者を戦地に送り、殺し・殺される道に踏み込ませる。さらに、日本が米軍の戦争にいっそう深く関与することで、日本人がテロや報復の脅威にさらされる―。まさに国民の命、とりわけ将来を生きる子どもたちの命を危険にさらすものであるからこそ、多くの国民が反対しているのです。
与党議員の「矜持」とは
「この安保法制で、国会議員の矜持(きょうじ)が問われている。厳しい安全保障環境の中、責任から逃れてはならない」
自民党筆頭理事である江渡聡徳議員は総括質疑でこう述べました。
首相や閣僚、与党議員は、口を開けば「安全保障環境が厳しさを増した」と繰り返します。しかし、憲法解釈を変え、戦後の安保法制を全面的に変えるような「変容」があったのか。政府は法案審議の中で、ただの一度も明確な答弁ができませんでした。
結局、審議すればするほど国民の批判が高まることを恐れて、強行採決を主導した官邸の言いなりになり、採決に応じた与党議員の「矜持」とはいったい、何なのか。 (竹下岳、吉本博美)
追い詰められた末の暴挙
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「首相官邸は相当焦っている。14日の夜も、日比谷公園から国会にかけて数万人が抗議に出ている。このもとで採決強行すれば批判はさらに強まり支持率も下がる。それでもやらざるを得ないのか。うまくいくか疑問だ」
自民党の閣僚経験者は15日の戦争法案の強行採決を見てこう述べます。
首相に近い自民党議員は、「週末の3連休をまたぐと反対の声が拡大しかねない」と述べて、支持率のさらなる下落を覚悟しても15日採決に踏み切り、早期に参院送付すべきだという判断を示していました。
広がる国民的批判に追い詰められ、傷を深くする覚悟で、官邸主導の採決強行に踏み切った姿がありありと浮かびます。
衆院安保特別委の委員の一人も採決後、「会期をまたげば(臨時国会に先送りすれば)法案成立は難しい。選挙が近づくほど、批判や支持率の低下で党内は持たなくなってくる。確実に成立させるには今国会しかない。今週やるしかなかった」と語りました。
■驚いた維新
安倍政権から「協力」を求められていた維新の党も、一方的な採決日程と採決強行に驚きを見せます。
14日には、維新の「対案」を審議するため、日本共産党と民主党の抗議を無視し、定例審議日外の特別委員会の一般質疑を開催。さらに14日、法案修正をめぐる自公・維新による政党間協議も開きました。ところが同日夕方の特別委理事会に向けて、突然翌15日の採決を通告され、維新側は「出てくるなといわれているようなもの」(馬場伸幸国対委員長)と怒りをあらわにしました。15日の採決強行後、同党幹部の一人は「こちらも胸を叩(たた)いてまとまれるという自信はない」としつつ、「与党の態度が急変した。あらゆるリスクを排除して突っ走る。焦っている」と述べます。
結局、「避けたい」といってきた与党単独での強行採決となり、政権と与党は孤立しました。
■党内政局も
「国民の理解が進んだと言い切る自信はない」(石破茂地方創生担当相、14日閣議後)という発言について、自民党議員からは「非常に大きい。支持率が落ちれば党内が割れる」と、党内政局にも発展しかねないとの声も出ています。
さらに採決後に、特別委の浜田靖一委員長が記者団に、国民の理解が進んでいない中での単独強行採決に対し、「国民のためになると確信しているということなので、そこは総理が責任を持って対応していく」と発言。「法律を10本も束ねたのはいかがなものか」と述べるなど、政権の対応への不満とも受け取れる異例の態度表明をしました。
行き詰まりの中の強行採決。広範な国民の運動と、戦争法案への厳しい世論は安倍政治を終わらせる力に発展しています。 (中祖寅一)