2015年7月8日(水)
イラクの現実から見た戦争法案の危険
米国への追従極まる 主体性かけらもなし
“米追随の安倍政権が集団的自衛権を行使することほど恐ろしいことはない”――。赤旗カイロ支局駐在を終え、政治部で戦争法案取材を始めて1カ月。いまの実感は、この言葉に尽きるといわざるを得ません。 (小泉大介)
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政府は、戦争法案が成立しても自衛隊の海外派兵は「主体的に判断する」として、米国の侵略戦争への加担はないとの姿勢を示していますが、信じろというのは無理な話です。
“主体性”のかけらもないことは、すでに日本共産党の志位和夫委員長が行った質疑(5月28日の衆院安保法制特別委員会)ではっきりしました。
過去の反省なし
志位氏は、米国が2003年3月のイラク戦争強行の根拠にした「大量破壊兵器の保有」情報が捏造(ねつぞう)だったことを認め、政府が戦争を支持したことを反省するのかと質問。安倍晋三首相はそれに答えないどころか、イラクのフセイン大統領(当時)は大量破壊兵器の非保有を証明しなかったなどと述べ、戦争支持の合理化まで行ったのです。
イラク侵略戦争―。数十万とも100万ともいわれる無辜(むこ)のイラク人の命を奪った上、その傷痕はいまだに同国と中東地域で癒えぬままです。この戦争をどう総括するかは、今後の世界と日本の行方にとって絶対に避けて通れない大問題です。
安倍首相の姿勢は、イラク戦争開戦時の自民党幹事長だった山崎拓氏が「(大量破壊兵器保有情報をめぐる)米の誤りはそのままわれわれの誤り」(6月12日の日本記者クラブでの会見)だと反省し戦争法案に反対していることと比べても、異常という他ありません。
イラク戦争で日本政府は何をしたのか。
米軍による攻撃が始まると、当時の小泉純一郎首相は即座に支持表明し、政府・与党は03年7月に自衛隊派兵のための「イラク特措法」を強行成立させました。ただ、無法な占領でイラクの治安が極度に悪化した8月になり、政府内で自衛隊派兵を翌年に先送りする声が出始めました。
米国に一喝され
そこで登場したのが、アーミテージ米国務副長官(当時)。「逃げるな。お茶会ではない」との一喝で、03年中の自衛隊派兵開始へと一気に突き進むことになりました。
アーミテージ氏は2000年、07年、12年の3度にわたり安全保障対日要求報告を発表し、「日本が集団的自衛権を禁止していることが同盟協力の制約」だなどと、改憲を露骨に迫ってきました。
集団的自衛権行使が許されなかったイラク戦争時でさえ、自衛隊は戦闘に行く武装米兵の輸送まで行いました。それが戦争法案の強行で同権が行使できるとなれば、どのような事態が待っているか。火を見るよりも明らかとはこのことです。
対IS参戦の悪夢
米軍によるイラク戦争と、分断統治政策にもとづく占領は、イスラム教スンニ派とシーア派との対立をあおり、内戦ともいえる混乱をつくりだしました。
米に製造者責任
そのなかで誕生し勢力を拡大したのが、現在、世界を震撼(しんかん)させている過激組織ISです。イラク戦争がなければISは存在しなかったというのは中東専門家の間ではほぼ常識で、山崎元自民党幹事長も「米国にISの製造者責任があるが、小泉首相を一番に、われわれにも連帯責任がある」(前述の日本記者クラブで)と述べている通りです。
米軍は昨年8月以降、自ら“製造”したISを掃討するため、イラクとシリアで空爆作戦を実施しています。しかし、この作戦は思うような効果を上げないどころか、ISがさらなる残虐性と“求心力”を増す事態をもたらしています。
この状況下、安倍政権が戦争法案を強行した場合、自衛隊がIS掃討作戦に参加するのではとの危惧が広がっています。
防衛省担当のメディア記者は「いま、省内で具体的にIS作戦が話題に上っている状況にはないが、戦争法案が成立し、米国が参加を要請してきた場合、拒否することはまず無理だろう」といいます。
ジャーナリストの鳥越俊太郎氏は1日の衆院安保法制特別委の参考人質疑で、民主党のオバマ米大統領は対IS地上作戦はないとしているが、次の選挙で(タカ派の)共和党大統領が誕生した場合、自衛隊が無関係でいられるかと指摘。「イスラム過激派とアメリカとの紛争や戦争に、日本が集団的自衛権で突っ込んでいくことの危険性」を強調しました。
「戦争でテロはなくせない」ということは、いまや国際社会の当たり前の認識です。米国でもプリンストン大学名誉教授のリチャード・フォーク氏が「軍事的アプローチは問題を終わらせるどころか、より多くの(ISへの)志願者を生み出してしまいます」(「朝日」6月26日付)と語っています。
ところが安倍首相は昨年9月にアラブ各国首脳と会談した際、米軍によるIS空爆に関し、「国際秩序全体の脅威であるイスラム国(IS)が弱体化し、壊滅につながることを期待する」と表明。ここでも米追随姿勢は鮮明です。
国民のたたかい
集団的自衛権行使に反対する著名な憲法学者らでつくる「立憲デモクラシーの会」。6月24日の会見で、戦争法案の撤回を求める声明を発表しました。
そこでは法案が、今年4月に日米両政府が合意した「日米防衛協力のための指針」(日米ガイドライン)にそったものであり、背景には米国の対日要求があると指摘。「このような対米追随ともとれる姿勢は、集団的自衛権行使に関して日本が自主的に判断できるとの政府の主張の信ぴょう性を疑わせる」と強調しました。
同会のメンバー、国際基督教大学の千葉眞教授(政治学)は「安倍政権の積極的戦争容認主義は“ネギを背負ったカモ”のようなものです。軍事と財政の両面でアメリカのカモにされ、属国化を強めていくだけではないか」と述べ、こう力説しました。
「安倍政権の抑止力万能論は時代遅れ。現在は『協調的安全保障』による信頼醸成、平和外交、対話の継続、貧困の除去、それらを前面にした安全保障が中心となっています」
中東をはじめ世界各地で自衛隊が米軍と肩を並べて戦争を行う―。その悪夢を現実にさせてしまうのか、それとも日本が憲法9条を生かし平和的安全保障確立の先頭に立つのかどうかは、まさに今後の国民のたたかいにかかっています。