2015年7月6日(月)
違憲の戦争法案 廃案しかない
NHKスペシャル「与野党代表に問う」 志位委員長の発言
日本共産党の志位和夫委員長は、4日夜放送のNHK番組「NHKスペシャル」に出演し、安倍政権と与党が衆院通過をねらう戦争法案について、与野党代表と討論しました。
政府提出法案の問題点は?
憲法9条を壊す三つの大問題――国民の5〜6割が「違憲」とする法案強行は許されない
番組では、6月上旬のNHK世論調査で、戦争法案の今国会での成立について「賛成」が18%に対し、「反対」が37%にのぼったことが紹介されました。与党側は「日本の平和と安全に不可欠な法案だ。いつまでも(採決を)延ばしていいというわけではない」(自民・高村正彦副総裁)などと発言。これに対し志位氏は、司会の島田敏男解説委員から「共産党は全面的に反対ですか」と聞かれ、こうのべました。
志位 はい、全面的に反対です。
私たちは、今度の法案というのは、憲法9条を壊す三つの大問題があるということを、国会で追及してまいりました。
第一は、武力行使をしている米軍等へのいわゆる「後方支援」――兵站(へいたん)ですが、これまでは「非戦闘地域」でしかできなかった。これが、これまで「戦闘地域」といわれた地域でもできるようになる。これは武力行使に道を開いてまいります。
第二は、PKO法(国連平和協力法)の改定ですが、これはたいへんな曲者(くせもの)で、形式上は「停戦合意」ができているけれども、なお、戦乱、混乱が続いているような地域に、自衛隊を派兵し、治安活動をさせる。そうしますと、約3500人もの戦死者を出しているISAF――アフガニスタンの治安部隊(国際治安支援部隊)、こういう活動への参加を首相は否定しませんでした。
そして第三に、日本がどこからも攻撃されていないのに、集団的自衛権を発動して、海外での武力の行使に乗り出す。これは憲法違反であることは明瞭です。
多くの方々が、5割、6割の国民が「違憲」といっているものを、これは通すのは許されないと、強く言いたいと思います。
民主党の岡田克也代表は「一番の問題は憲法解釈を変えて集団的自衛権を行使するところにある」、維新の党の松野頼久代表も「根本的な問題はまず憲法違反である」とのべました。
集団的自衛権行使をどう考える?
「新3要件」の判断は無限定に広がる――米国の無法な戦争への参戦が一番の現実的危険
戦争法案で重大な問題となっている集団的自衛権行使と憲法との関係が議論になりました。「安倍内閣が容認をした集団的自衛権の限定的な行使は、合憲か違憲か」との問いに、各党が「札」をあげて表明。自民、公明両党は「合憲」の「札」をあげたのに対し、共産、民主、維新、社民、生活、元気の各党は「違憲」の「札」をあげました。
与党側は「(武力行使の)『新3要件』は、非常に厳格な要件でつなげている。あくまで自国防衛を大前提にした要件になっている」(公明・北側一雄副代表)などと発言。これに対し志位氏は次のようにのべました。
志位 私は、この(法案の)最大の問題は、(武力行使の)「新3要件」を満たしているかどうかの判断が、時の政権の裁量にまかされており、無制限に広がっていくと、こういうところにあると思います。
私は、国会で、「米国が先制攻撃の戦争をやった場合でも、集団的自衛権を発動するんですか」とただしました。総理の答弁は「違法な武力行使をした国を支援することはない」というものでした。
しかし問題は、米国の違法な武力行使を日本政府が「違法」と批判できるのか。ここにあります。戦後、米国は、ベトナム侵略戦争、イラク侵略戦争、数限りない先制攻撃の戦争を実行してきました。しかし日本政府は、戦後、ただの一度も米国の戦争に「ノー」と言ったことはない。これは総理も国会で認めました。そうなってきますと、こんな異常なアメリカ言いなりの国というのはない。
米国が無法な先制攻撃を行った場合でも、言われるまま、集団的自衛権を発動して、武力の行使をやることになる。ここに私は、集団的自衛権行使の一番の現実的な危険があると思います。
「日米同盟」の名で米国の侵略を支持、参戦してきたことへの反省はないのか
志位氏の発言を受け、自民・高村氏は「日米同盟を強化しないでどうやって日本の平和と安全を維持できるのか。例えば北朝鮮ははっきりとした脅威だ。核もミサイルも開発している。それを止めるのは抑止力以外ない。話せばわかる国じゃない」と発言しました。
志位氏は次のように反論しました。
志位 「日米同盟の強化」(の名)で、(自公政権は)たとえば違法なイラク戦争を支持し、参戦した。この総括をやってないじゃないですか。「大量破壊兵器」を理由に戦争に突っ込んだ。この総括をあなたがた(政権・与党は)やっていない。
北朝鮮の問題はもちろん解決が必要です。しかし私は、国際社会の包囲の中で、6カ国協議という枠組みの中で、外交で解決する努力が必要であって、軍事をやってくるからこっちも軍事だと、“軍事対軍事”に陥るのが一番危険だといいたいですね。
「日米同盟」の名で(米国の)侵略を支持してきたじゃないですか。ベトナム戦争、イラク戦争。これへの反省はないんですか。
志位氏の批判に対し、与党側からは反論はなし、公明党の北側氏は「日米同盟があるから、わが国は守られている」と軍事同盟に固執しました。一方、民主党の岡田氏は「日米同盟は非常に重要だ。ただ日米同盟による抑止力と、憲法9条の平和主義、この二つで70年間の平和が保たれた」とのべました。
維新「対案」をどうみる?
憲法違反の集団的自衛権行使になる――政府案反対の一点で野党協力を強めたい
維新の松野頼久代表は、同党が10日までに国会提出しようとしている戦争法案の「対案」について「個別的自衛権のちょっと拡大だ」と説明しました。「維新案」は、武力行使を認める要件に「我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険があると認められるに至った事態」をあげています。
志位氏は次のようにのべました。
志位 私は、個別的自衛権と集団的自衛権を分かつ最大の基準というのは、日本に対する武力攻撃が発生しているか否かにあると思います。
維新の党の「案」というのは、日本に対する武力攻撃が発生していなくても、武力の行使ができると。「明白な危険」の段階でできると(いうものになっている)。「危険」と言うのは『広辞苑』で引きますと、「危害が生ずるおそれ」なんですよ。つまり「おそれ」の段階で武力行使ができるとなりますと、これは個別的自衛権では説明はできない。集団的自衛権(行使)ということになる。ですから、私は、憲法違反になると思います。
ただ同時に、私は、この野党の間では、国会会期延長のときに、党首会談をやりまして、この延長には反対という点を確認しています。ですから安倍政権の横暴な国会運営、あるいは政府の法案に反対するという一点では、野党の協力は強めたい。この点では、国民もそのことを願っていると思うし、私たちも最大限野党間の協力を強めていきたいと。これは変わりありません。
「維新案」については自民・高村氏は「まとめたことは大変評価している」とのべる一方で、「維新の案は国際法的には集団的自衛権」と指摘しました。
自衛隊・国民のリスクは高まるか?
自衛隊員の戦死者が出る、他国の民衆を殺す――両面でリスクは深刻なものとなる
戦争法案は、米国が、世界のどこであれ、戦争に乗り出せば、自衛隊が従来活動を禁止されてきた「戦闘地域」にまで行って、米軍や他国軍の「後方支援」=兵站を行うことを可能にします。自衛隊の活動拡大で、自衛隊員・国民のリスクが増大するかどうか―。自民、公明はリスクが「高まらない」との「札」をあげたのに対し、野党8党は全員が「高まる」の「札」をあげました。
自民・高村氏は、「(法案では)防衛大臣に安全確保義務が課せられている。(自衛隊が)任務の間について、戦闘行為が行われないと見込まれる地域(実施区域)を決める」などと主張しました。志位氏は次のように批判し、高村氏との間で議論になりました。
志位 (高村氏は)「(自衛隊が)活動期間中、戦闘行為が行われないと見込まれる地域を実施区域にする」と(言ったが)、そんなことは法律に書いていないですよ。法律にはどこにも書いていない。
法律に書いてあるのは、これまではたとえばアフガン戦争、イラク戦争で自衛隊を派兵したわけですけれども、「非戦闘地域」でしか活動ができないという枠組みがあったわけですよ。これを撤廃して、「戦闘現場」でなければ、これまで「戦闘地域」と呼ばれていたところまで出て行って支援活動をやると(いうことです)。
そうなりますとどこが変わるかというと、相手側から攻撃される可能性が現実に出てくるわけですよ。「攻撃されたらどうするのですか」と、総理と国会でずいぶん議論しました。そうしたら「武器の使用をする」と認めましたよ。「武器の使用」を自衛隊が一度したら、相手側はさらに攻撃してくる。それで戦闘になるじゃないですか。憲法9条に違反する武力の行使になる。自衛隊員が「殺し、殺される」という事態になるのです。
これで(自衛隊員の)戦死者が出る。あるいは他国の民衆を殺すことによって、日本が憎悪の対象になる。この両面でリスクは本当に深刻なものになると思います。
「戦闘が行われる見込みがない地域」――法案に書いていない、外したのが今回の法案
志位氏のこの発言を受け、志位氏と自民・高村氏の間で、次のようなやりとりになりました。
高村 (自衛隊の)任務というのは1週間とか2週間とかそういう任務が非常に多いわけですよ。それを実施する間じゅう、戦闘が行われる見込みがない地域ということで防衛大臣がはっきり定めるのですよ。
志位 だからそれが法律に書いてないのです。
高村 「安全確保義務」が書いてあるから。
志位 書いていないです。「その期間中に(戦闘が)見込まれない地域」なんて法律に書いてないです。ごまかしてはいけない。
このやりとりに司会の島田氏は「高村さんは、条文には書いていないけれどもそういう考え方という補足をしたということですね」と確認。高村氏は「『安全確保義務』が書いてある以上、そうすることはあたりまえなのです」とのべ、法案には「活動期間中、戦闘行為が行われないと見込まれる地域」と明記されていないことを認めました。これを受け、ふたたび志位氏と高村氏とのやりとりになりました。
志位 これまでは、「非戦闘地域」というのは、「現に戦闘が行われておらず」、そして「(自衛隊が)活動を実施する期間のあいだ、戦闘が行われないと認められる地域」と、二つかかっていたわけですよ。それを外してしまうわけですから。
高村 非常に長い間で、それを定めることは現実的にほとんど無理であるということがわかったのです。だから小泉さん(元首相)が変な答弁をしなければならないようなことが起こったのです。
志位 「活動の期間中に戦闘が起こると見込まれない地域」なんていうことは法律に書いていない。書いていないことをごまかしてはいけません。
一発も銃弾を撃たなかったことは大きな資産――日本人全体が新たなリスクにさらされる
「リスク」をめぐっては、公明・北側氏が「リスクは今だってある。それをいかに軽減、管理していくか」などとのべたのに対し、司会の島田氏も「分かりにくい」と発言。野党側は「リスクが高まるときちんと認めるべきだ」(民主・岡田氏)、「活動範囲がひろがれば当然リスクは高まる」(維新・松野氏)などと批判しました。
高村氏は「木を見ないで森を見るとリスクも減る」などとしかいえなくなり、志位氏はこうのべました。
志位 私は、この「リスク」という問題を考えるさいに、紛争地でボランティアの活動をやっていらっしゃる方々が共通して言うのは、日本の自衛隊は、これまで一発も外国人に向けて銃弾を撃っていない、一人も殺していない。これがたいへん大きな資産になっているということを、おっしゃるんですよね。それがあるおかげで、海外でのボランティア活動もやりやすいと(言っている)。
これが、なぜそういうふうになってきたかといえば、集団的自衛権は行使できないと。それからいわゆる「後方支援」――兵站活動をやった場合であったとしても、「非戦闘地域」でしかやれないと。この枠がかかっていたから、一発も撃たず、一人も殺さずにすんだんですよ。
私は、この枠組みを外してしまって、実際に、「殺し、殺される」という関係になったら、これは、世界の民衆の日本を見る目が変わってしまう。さまざまな憎悪の対象に日本がされる。その点では、世界で活動している日本人全体が新たなリスクにさらされる(ことになる)。ここも考えなければならない大問題だと思います。
目指すべき国のあり方は?
「北東アジア平和協力構想」――憲法9条を生かした平和の外交戦略こそ必要
安倍首相の掲げる「積極的平和主義」と、めざすべき国のあり方についてが議論となり、志位氏は次のように語りました。
志位 安倍さんは「積極的平和主義」とおっしゃるんですが、私は、軍事対応が突出しすぎて、外交戦略がないと、そういうふうに見ています。
たしかに、この北東アジアの地域には、さまざまな紛争や緊張の火種がある。しかし、相手が軍事できた、それに対して軍事で構えると、そうしたら相手もさらに軍事力の増強を加速する。“軍事対軍事”の一番危険な悪循環に陥ると思うんですね。
私は、どんな問題でも憲法9条の精神を生かした、外交的解決に徹するという姿勢が大事だと思うんです。
私は、そのヒントは、東南アジアのASEAN(東南アジア諸国連合)の国々にあると考えています。ASEANの国々がつくっている、TAC――東南アジア友好協力条約。あらゆる紛争課題を、平和的な話し合いで解決するという条約を結び、これを域外に広げています。
私たちは、こうした東南アジアでつくられているような平和の地域協力の枠組みを、北東アジアでもつくろうじゃないかと、「北東アジア平和協力構想」というのを提唱しておりますが、ぜひそういう外交戦略が、今の日本には必要だと(思います)。9条をいかした外交戦略が必要です。
国会への対応をどうするか?
「憲法違反」の法案はどんなに審議しても「合憲」にならない――撤回、廃案を求める
最後に、戦争法案をめぐる国会対応が議論になりました。民主の岡田氏は「もう一回法案を出しなおす」べきだとのべ、維新の松野氏は「(衆院で再議決する)60日ルールをまずやめる」べきとのべました。自民の高村氏は「十分審議をするということだ」と発言。志位氏はつぎのようにのべました。
志位 私は、「憲法違反」ということが明瞭になった法案は、どんなに審議時間を重ねても「合憲」にならないと思います。
ですから私は、この戦争法案は撤回、廃案にすべきだということを強く求めていきたいと思います。
まかり間違っても、与党が数の暴力でこれを通すということは、絶対あってはならないということを強く言いたいと思います。