2015年6月26日(金)
主張
「国立大学改革」
文系などの切り捨てを許すな
安倍晋三政権が「成長戦略」具体化の一環として「国立大学改革」を進めています。そのなかで文部科学省が人文系などの廃止を迫っていることに、大学総長などから批判が上がっています。
議論が近視眼的で性急
文科省は、国立大学が来年4月から6年間の「中期目標」を決めるにあたって、各大学の「強み・特色」を生かすため、人文社会科学系や教員養成系の学部・大学院の「廃止や社会的要請の高い分野への転換」を求める通知を出しました(8日)。
各大学の「強み」とは、政府が打ち出した三つの類型((1)世界最高水準の教育研究(2)分野ごとの優れた教育研究(3)地域ニーズへの貢献)のいずれかの機能を選択し、その枠のなかでつくりだせというものです。これでは、3類型という国がつくった鋳型にそぐわないとして、文科系などを切り捨てざるをえなくなります。
国立大学協会の総会(15日)では、里見進会長(東北大学総長)が「人材養成の議論が近視眼的で短期の成果をあげることに性急になりすぎている」と異例の批判をする事態となっています。
古典や哲学、歴史、社会科学などの幅広い学びを通じ、豊かな人間性と深い洞察力を身につけた学生を育てることは、社会が大学に求める大事な役割です。京都大学の山極寿一総長も、文科省の通知について「幅広い教養と専門知識を備えた人材を育てるためには人文社会系を失ってはならない」と強調しています(「京都」17日付)。
日本学術会議は、政府の科学技術政策への提言(2月27日)で、「人間と社会のあり方を相対化し批判的に省察する人文・社会科学の独自の役割」を強調し、「学術の総合性という視点に立って、とりわけ人文・社会科学の振興を明確に位置づけ」ることを求めています。政府がすすめる「改革」は、こうした方向に逆行しています。
重大なのは、国立大学の日常経費を賄うために国が交付する運営費交付金を、3類型の枠内での「改革」を競争させる予算に変質させようとしていることです。
文科省は各大学の改革を評価し、類型にそって重点配分するといいます。財界や財務省は、運営費交付金の3割を、そうした重点配分に変えるよう求めています。国立大学の3類型化を財政面から誘導するとともに、大学の人件費や日常的な教育研究費などをささえている運営費交付金の基盤的部分を大幅に削減するものです。
運営費交付金は、2004年の国立大学法人化以降10年間で1300億円も削減されました。国大協の報告書(5月25日)によると、日本の学術論文数は主要国の中で唯一減少し、35カ国中で00年の17位から13年は最下位に、質を示す論文の注目度は31位に転落しました。報告書は、その主因が運営費交付金削減だと告発しています。
基盤的予算の増額が急務
17の国立大学では、経営協議会の学外委員が声明をだし、「地方国立大学の存立を危惧せざるをえない」とのべて、運営費交付金のこれ以上の削減に反対しています。
いま国立大学の発展に必要なことは、文系にも理系にも多様な基礎的学問の場を保障する基盤的予算の充実です。学問を衰退させる安倍内閣の「大学改革」は根本から見直すべきです。