2015年6月17日(水)
きょうの潮流
日本では昨年出版され、映画も公開された『窓から逃げた100歳老人』という世界的なベストセラーがあります。100歳の誕生パーティーの日に老人ホームを抜け出し、珍道中をくりひろげる小説です▼ひょんなことから大金を手にし、追われる身となった主人公。しかし当人はどこ吹く風。成り行き任せで冒険を楽しむ。歴史的場面に常に居合わせた過去をもつなど話ははちゃめちゃですが、いつまでも人生を謳歌する姿に元気をもらいました▼高齢者の若返りが進んでいるといいます。今の65歳以上の身体や知能、健康状態は10〜20年前と比べて5〜10歳は若返っている。日本老年学会が発表しました▼それによると、治療を受ける高齢者の割合は低下し、歩く速さや握力といった身体能力はアップ。自立して生活できる力も向上しているそうです。人間の可能性がひろがる朗報と受け止めたいが、社会の現状をみれば単純には喜べません▼お年寄りに冷たい政治の下、年金は削られ、福祉の制度は次々に掘り崩され、老後の生活設計すら成り立たない。高齢者の貧困は増え、相次ぐ災害や平和を脅かす空気にも不安がつきまとう。これでは活力も引き出せないでしょう▼「こうして社会とかかわっているから、元気でいられる」。戦争法案反対の集会で出会った初老の夫婦が話していました。歴史や社会をつくることに、みずからの生き方を重ねる。人生の幸せや明るい希望をもとめて活動することも、若返りのひとつなのかもしれません。