2015年6月14日(日)
TPP促進の法案米下院 事実上否決
危険性 認識深まる
運動の広がり反映
【ワシントン=島田峰隆】米下院で12日、大統領貿易促進権限(TPA)法案が事実上否決された背景には、米国民の間で環太平洋連携協定(TPP)の危険性について認識が深まり、反対運動が徐々に広がっていることがあります。
米国の労働組合や環境団体、消費者団体などは、TPPは昨年発効から20年を迎えた北米自由貿易協定(NAFTA)を世界規模に広げるものだと批判してきました。米国、カナダ、メキシコが参加するNAFTAは、関税の撤廃、多国籍企業による国家を相手取った訴訟などTPPを先取りした内容です。
米消費者団体パブリック・シチズンの調査によると、NAFTAのもとで米企業は賃金が低いメキシコやカナダへ次々と移転し、2004年までに限っても米国内で100万人分の雇用が失われました。競争力強化を理由にした賃下げ、安全性の低い食物の流入なども問題になっています。
労組など数百の団体は、TPPやTPAに反対する共同の運動体を結成。NAFTAの経験を示し、「TPPは多国籍企業など1%の富裕層を豊かにするだけだ」と訴えました。電話やはがきを使って連邦議員へ直接働き掛けたほか、テレビでの宣伝なども実施しました。
こうした動きを反映して、与党民主党のなかではTPAに慎重姿勢を取る議員が目立っていました。米メディアによると、オバマ氏は12日朝から民主党議員を軒並み訪問して法案に賛成するよう圧力をかけましたが、功を奏しませんでした。
週明けに予定される再採決へ緊迫した状況が続きます。労組などは反対運動を強める姿勢です。
「たたかい終わってない」
労組・消費者団体が声明
【ワシントン=洞口昇幸】環太平洋連携協定(TPP)妥結のためにオバマ米政権が米議会に求めている大統領貿易促進権限(TPA)法案の成立が12日、下院で事実上阻止されたことを受けて、TPP・TPAに反対する米労働組合や消費者団体は同日、「たたかいは終わっていない」などとする声明を発表しました。
消費者団体パブリック・シチズンは、TPPで国内の雇用がさらに減り、賃金水準も押し下げられるという米国民の懸念は静まっていないと指摘。下院の結果は、TPP推進の多国籍大企業のカネを使った圧力とオバマ政権などの厳しい締め付けに、TPP反対の多くの団体による連合の多様さと強さが打ち勝ったことを示すものだとしています。
米労働総同盟産別会議(AFL・CIO)のトラムカ議長は、TPPに反対するたたかいに尽力する人々全てに感謝の意を表明。議会与党の民主党や野党の共和党に対し、TPPではなく最低賃金の引き上げで米国経済を活性化させる道に転換することを求めています。
TPA関連法案
下院に可決催促 米大統領
【ワシントン=洞口昇幸】12日に米下院で大統領貿易促進権限(TPA)法案を可決したものの、関連法案が否決されてTPA法案が成立できない状況となったことを受け、オバマ大統領は同日、TPA法案を成立させるため、下院に関連法案をできるだけ早く可決するよう強く求める声明を発表しました。
オバマ氏はこれまでと同様、環太平洋連携協定(TPP)推進と、TPP妥結のためにTPA法案の成立を求める立場を強調しました。同関連法案の貿易調整支援制度(TAA)法案を、「滞りなく可決するよう、下院に対し主張する」と述べています。