2015年6月14日(日)
主張
72年見解ねじ曲げ
結論ありきの乱暴な解釈改憲
安倍晋三政権は、集団的自衛権の行使を認めた戦争法案の「合憲性」を主張するため、1972年の政府見解を持ち出しています。しかし、この政府見解は、集団的自衛権の行使は憲法上許されないと断じたものです。集団的自衛権の行使を違憲と結論付けた見解がなぜ、「合憲」の根拠になるのか―。その理屈を見ると、見識を持ったまともな政府であればおよそあり得ない、極めて強引なねじ曲げが行われていることが明瞭です。
極めて無理なこじつけ
焦点になっている政府見解は、72年10月に内閣法制局が参院決算委員会に提出しました。集団的自衛権の行使が憲法上許されないとする政府の立場がどのような考え方に基づいているのかについて説明した文書です。
その考え方は、(1)憲法9条は戦争を放棄し、戦力の保持を禁止しているが、「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置」を禁じてはいない(2)しかし、この自衛の措置は無制限に認められるわけでなく、「あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態」に対処するための必要最小限度の範囲にとどまるべきだ―というものです。
その上で、見解は「したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することを内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」と結論付けています。
安倍政権は、戦争法案で集団的自衛権の行使を認めた「武力行使の新3要件」が、この72年の政府見解の「基本的な論理を維持」していると言い張ります。
そのからくりは、72年の政府見解が(2)の部分で述べている「外国の武力攻撃」を「日本に対する武力攻撃」だけでなく、「他国に対する武力攻撃」も含んでいると拡大解釈するところにあります。そう読めば、「新3要件」にある「他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」、つまり日本が直接、武力攻撃を受けていない場合でも武力行使が認められることになり、集団的自衛権の行使が可能になるという理屈です。
しかし、72年の政府見解でいう「外国の武力攻撃」が「日本に対する武力攻撃」を指すのは誰の目にも明らかです。それを「他国に対する武力攻撃」まで含むというのは、あまりにも無理なこじつけです。政府自身、そうした説明をしたことはこれまでなかったと認めています(横畠裕介内閣法制局長官、3月24日、参院外交防衛委員会)。完全な論理破綻です。
「環境変容」も説明不能
政府は決まって「安全保障環境の根本的な変容」を持ち出し、他国に対する武力攻撃でも日本の存立を脅かすことが現実に起こり得ると言います。しかし、この安全保障環境の根本的変容とは具体的に何を指すのか、他国への武力攻撃が日本の存立を脅かすとはどんな事態なのか、まともな説明はありません。政府が繰り返すホルムズ海峡の機雷封鎖という例には専門家から疑問が噴出しています。
集団的自衛権行使ありきのこじつけの理屈で、従来の政府の憲法解釈さえ踏みにじる戦争法案は即刻廃案しかありません。