2015年6月10日(水)
国立大人文系を統廃合
文科省が通知 交付金も重点配分
文科省は8日、国立大学に対して人文社会科学や教員養成の学部・大学院の縮小や統廃合などを求める通知を出しました。理系人材を求める財界の要求に応えて“人文系つぶし”に踏み出すものです。各大学は通知を参考に中期目標・中期計画を策定することになります。
通知は、「持続的な競争力を持ち、高い付加価値を生み出す国立大学となることが期待される」と強調。理系分野の「人材需要」などを理由に、人文社会科学系や教員養成系の学部・大学院について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組む」と明記しました。
国立大学への運営費交付金についても「機能強化に積極的に取り組む大学に対し重点配分する」として、(1)世界で卓越した研究(2)全国的な研究(3)地域貢献―の三つの支援の枠組みを示しました。学長主導で学部の統廃合などを進めていくよう財政支援の強化も盛り込みました。
法科大学院についても定員見直しや、組織廃止・統合も含めた見直しを求めています。
解説
日本社会の発展にも逆行
文科省の通知(8日)は、財界・大企業の要求に応えて大学や研究分野を国が選別し、予算の重点配分と一体で教員養成・人文社会科学系を縮小・廃止しようとするものです。
財界は「研究面で新しい発見がなくなってきたり、動きが止まっているような学問領域を思い切ってやめて、新しい領域、学際分野を立ち上げるべきだ」(小林喜光経済同友会代表幹事)と主張。“国際競争力強化”のために学部学科の統廃合を公然と求めています。
これに応えて安倍内閣は、各大学に「3類型」―(1)世界最高の研究(2)全国的研究(3)地域貢献―から一つを選択するよう求めており、人文系統廃合はその一環です。安倍内閣は各大学の取り組みを評価して運営費交付金も重点配分する計画です。
すでに国立大学の基盤的経費である運営費交付金は、法人化後の10年で約1292億円も削減され、教育研究に重大な障害をつくりだしています。重点配分によって、各大学が類型ごとに資金獲得競争に追い立てられ、大学や学部の再編・統廃合が進められる危険性を抱えています。
しかし、日本学術会議が「(人文科学は)人間と社会のあり方を相対化し批判的に考察する」(提言)と指摘するように、人文科学系の役割は極めて重要です。
多様な役割・機能を持つ大学を国が上から再編していくことは、学問・研究の発展だけでなく、日本社会の豊かな発展にも逆行するものです。
(深山直人)