2015年6月2日(火)
主張
マイナンバー拡大
国民はこんな番号求めてない
安倍晋三政権が、日本国内に住民票をもつ人たちに一人残らず12桁の番号を割り振る「マイナンバー(社会保障・税番号)」の利用できる対象分野を広げる動きを強めています。マイナンバー制度は今年10月から国民への番号通知が行われる予定で、まだ始まっていません。そんなうちから利用分野を拡大する改定法案を国会に提出したり、その法案もまだ審議中なのに安倍首相が政府の会議でさらなる拡大方針を表明したり、あまりに異常な前のめりです。個人情報を国が一括管理する制度への国民の不安と懸念は払拭されていません。乱暴な推進は許されません。
重い負担と労力に悲鳴
マイナンバーは、赤ちゃんからお年寄りまで住民登録をしている人全員に生涯変えられない原則の番号を付け、その人の納税や社会保障給付などの情報を、国が管理し行政手続きなどで活用する仕組みです。今年10月に市区町村から簡易書留で番号を通知するカードが住民に届けられ、来年1月から一部運用を開始する計画です。
事業所は来年1月以降、従業員の給与からの税・社会保険料の天引き手続きなどに番号を使うことが義務づけられているため、従業員本人はもちろん配偶者・扶養家族の番号も勤め先に申告することが求められます。企業側はアルバイトを含め従業員の膨大な番号の厳格な管理が求められており、いま対応に大わらわです。システムの更新や整備の費用や人的体制確保が重い負担となってのしかかる中小企業からは、悲鳴が上がっています。実務を担う自治体職員の業務も過重になっています。
多大な負担を求めながら、国民にも企業にもマイナンバーの恩恵はほとんどありません。政府はマイナンバーがあれば公的年金の申請の際などで、複数の書類をそろえる手間が省けると盛んに宣伝しますが、多くの人にとっては年に一度あるかないかの手続きです。個人番号を他人に知られないように管理するための労力に見合うような利点とはいえません。むしろ他人による番号の不正利用や、個人情報の流出によってもたらされる被害の方がはるかに深刻です。
マイナンバーのそもそもの目的は、「国民の利便性向上」ではありません。国が、国民の所得・資産を効率的に掌握し、徴税を強化すると同時に、「過剰な社会保障給付」を受けていないかなどをチェックするためです。しかし、富裕層の資産隠しの「逃げ道」を追跡する仕組みは整っておらず、監視対象はもっぱら一般の国民です。「3兆円市場」といわれるマイナンバー普及に沸き立つのは財界・大企業ばかりというのが実態です。
運用の中止こそ必要
2013年成立の現行法の利用対象は「税・社会保障・災害対策」に限ったのに、国会で審議中の改定法案は、メタボ健診や銀行預金口座などにも使える方針を盛り込みました。安倍首相は5月29日の産業競争力会議で、医療分野への利用拡大、民間分野での利用の加速化などまで指示をしました。
個人情報の固まりで、他人に知らせてならないマイナンバーの利用範囲をなりふりかまわず広げることは、情報流出リスクを高め国民のプライバシーを危険にさらす暴走です。10月からの番号通知などを中止し、制度廃止へむけ検討と議論を行うことこそ必要です。