2015年5月10日(日)
安倍流「国立大改革」の暴走(上)
3類型に再編“人文系つぶし”
安倍内閣が進める「国立大学改革」で、人文・教育系学部の廃止が浮上しています。86の国立大はどうなるのでしょうか。
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「この夏までに『国立大学経営力戦略』を策定し、『3類型』のミッション選択に基づく自己改革を進める」
安倍晋三首相は4月15日の産業競争力会議の課題別会合でこう表明し、そのために「運営費交付金と競争的資金の一体改革を進める」と述べました。
「3類型」とは、文科省が「国立大学改革プラン」(2013年11月)で打ち出した「国立大の機能強化の方向性」―(1)世界最高の教育研究拠点(2)全国的な教育研究拠点(3)地域活性化の中核拠点―に基づくものです。
国策に沿い選別
同会合で下村博文文科相は、「特定研究大学」「卓越大学院」などの創設を打ち出し、国策に沿う大学や分野を選別支援していく考えを強調しました。
これまで文科省は、「3類型に再編」ではなく、「機能強化の三つの方向性」と説明してきました。国立大学に対する運営費交付金の検討会でも、各大学が選んだ機能強化の方向について重点支援を行うものだと説明。国立大学協会も中間まとめ案を受けて「大学のいわゆる『類型化』ではないことを改めて確認いたします」としていました。
ところが、安倍首相が表明したのは、国立大学を文字通り三つに再編しようというものです。
同会合では、財界人が「研究面での新しい発見がなくなってきたり、動きが止まっているような学問領域を思い切ってやめて、新しい領域、学際分野を立ち上げるべきだ」(小林喜光三菱ケミカル会長)と発言。学部学科の統廃合を公然と求めています。
そのターゲットは人文科学や教員養成系です。国立大学法人評価委員会の「組織・業務見直しの視点」では、教員養成・人文社会科学系の「組織廃止」を打ち出しています。
日本共産党の田村智子参院議員は4月21日の委員会で、「国策に沿った産業振興のために、大学や分野を国が選別し、予算を重点化するのと一体に教員養成・人文社会科学系を縮小・廃止するものだ」と批判しました。
国立大学の基盤的経費である運営費交付金は、法人化後の10年で約1292億円も削減され、文科省の裁量で重点配分する仕組みが導入されてきました。
資金獲得競争に
今後は、各大学が「3類型」から一つを選択。文科省が、各大学の取り組みを評価して配分することが検討されています。
大学同士が類型ごとに資金獲得競争に追い立てられ、3類型に再編されていくことになり、基盤的経費の削減がいっそう拡大する危険を抱えています。
日本学術会議は提言で、「(人文科学は)人間と社会のあり方を相対化し批判的に考察する」と人文科学系の役割を強調しています。
田村氏は「豊かな教養や高度な専門知識をどれだけ国民の中に培うのかということが日本社会の発展にとってきわめて重要だ。学部再編や廃止を政府が大学に突きつけることはあってはならない」と主張しました。(つづく)