2015年5月5日(火)
きょうの潮流
今年2月に亡くなった松谷みよ子さんの作品や蔵書を集めた「本と人形の家」が先月から再開されています。東京・練馬の松谷さんの自宅内につくられた文庫は親子で楽しめる本がずらり▼児童文学の世界に新たな地平を切り開いてきた作品は、たくさんの親子に読み継がれてきました。『いないいないばあ』はそれまでほとんどなかった赤ちゃんの絵本。570万部を重ね、日本で最も売れている絵本です▼「モモちゃんとアカネちゃん」のシリーズでは親の離婚というつらい現実を子どもにもわかる比喩で表現しました。笑顔と勇気だけでなく、直面する困難に子や親がどう向き合うか。松谷さんの作品に自分の子育てを重ね合わす母親も多い▼いま日本の子育てはきびしい。ひろがる貧困層、身も心もすり減らす不安定な雇用と低賃金、高い教育費や待機児童…。安心して子育てできる社会には、ほど遠い▼子どもをめぐる環境も悪化しています。命を平気で奪うすさんだ事件が相次ぎ、安否が確認できなかったり、身に危険を感じている生徒も少なくありません▼フィンランドには妊娠、出産から子育てまで切れ目なく家族を支える公的な制度があると。後退する日本の国や自治体と比べ、なんというちがいか。松谷さんは自身の子が生まれたときに思いました。「この小さな命を育て上げるためには、なによりもまず、この子の命を守らなくてはならないのだ」。子育てしにくい国、命を軽んじる政治が横行するなか、きょうの日に改めて。