2015年5月1日(金)
安倍首相 米議会演説 「希望」どころか「屈辱」の同盟
「戦争立法」・TPP・沖縄新基地 米の歓心得るため国民犠牲
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これほど深刻な主権放棄・対米従属の姿勢を公然と示した首相はいないのではないか―。4月29日(日本時間30日未明)、米上下両院合同会議で行われた安倍晋三首相の演説を聞いて、そう思わざるをえませんでした。
「世界の平和と安定のため、これまで以上に責任を果たす。そのために必要な法案の成立を、この夏までに必ず実現します」。首相は、自衛隊が米軍の戦争に地球規模で参戦する「戦争立法」についてこう表明しました。
同法案は、まだ国会にも提出されていません。加えて、国民の大多数は、若者を戦場に送り、命の危険にさらす「戦争立法」の成立反対、または慎重審議を望んでいます。
しかし、首相はおかまいなしです。同日午後(日本時間30日早朝)、ワシントンで開かれた笹川平和財団主催のシンポジウムでは「日米が力をあわせ、アジア・太平洋、インド洋の平和と安定を確かなものにする」とも述べました。「極東」という日米安保条約の地理的範囲すら超え、地球規模で軍事作戦を行う米大統領の「副官」気取りです。
議会演説では、農業や医療など、あらゆる分野で日本の主権を米国に明け渡す環太平洋連携協定(TPP)について、「日米間の交渉は、出口がすぐそこに見えている」と言明。早期妥結に強い意欲を示しました。
驚くことに、首相は、1990年代のGATT(関税貿易一般協定)交渉で、農産物輸入自由化の圧力をかける米国に自身が抗議していたのは「血気盛んな若手」のころだったとして、事実上の自己批判までしました。
議会演説では触れませんでしたが、これに先立つ28日の日米首脳会談で沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設推進を表明したことで、県民の怒りはさらに高まっています。
「希望の同盟」。首相は演説をこう締めくくりました。日本の首相として初めて合同会議での演説を認められたことで、舞い上がっていました。しかし、米の歓心を得るために、これだけ国民に犠牲を強いようとしているのです。これでは「希望」どころか、「屈辱の同盟」です。
米国で示された安倍氏の歴史認識
政府責任免罪の意図
安倍首相の米議会演説で最も注目されたのは、日本の過去の侵略戦争や植民地支配に対する認識でした。同演説が、首相が8月に発表する「戦後70年談話」の骨格になるとみられているからです。
首相は、「先の大戦に対する痛切な反省」を口にしましたが、日本によるアジア諸国に対する「植民地支配と侵略」に言及せず、おわびの意思も示しませんでした。
また、旧日本軍「慰安婦」について言及せず、中国、韓国からはさっそく厳しい批判の声が上がりました。
首相は、自身の歴史認識は「歴代総理と全く変わるものではない」と強調しました。しかし、戦後50年の「村山談話」や戦後60年の「小泉談話」には、「植民地支配と侵略」とともに、「お詫(わ)びの気持ち」という言葉が語られています。
訪米直前のアジア・アフリカ会議(バンドン会議)首脳会議(4月22日)での演説でも、「日本の植民地侵略と侵略」「おわび」に一切言及しなかった安倍首相。「(村山談話などと)同じことなら談話を出す必要がない」と語る首相の「戦後70年談話」の骨格が垣間見えてきました。
旧日本軍「慰安婦」問題について首相は、オバマ大統領との共同記者会見(同28日)などで「人身売買」との認識を示しました。
これは、米議会下院本会議の決議(2007年7月)が、「慰安婦」問題を「20世紀最大の人身売買」と断じたことを念頭におき、米側とのあつれきを避ける狙いがあったとみられます。
しかし、同決議は、日本政府に対し、旧日本軍が女性たちを「慰安婦」という性奴隷にしたことを「十分に認め、謝罪し、明確であいまいでないやり方で歴史の責任を受け入れよ」と迫る内容でした。
一方、安倍氏が使う「人身売買」という言葉からは、「慰安婦」問題を民間業者が行った問題と矮小(わいしょう)化することで、政府の責任を免罪する意図が透けて見えます。
こうした安倍首相の歴史認識に対して、議会演説を聞いた米議員からも、「首相が組織的残虐行為の責任を認めなかったことは、恥ずべきことだ」(マイク・ホンダ下院議員)との声が出ています。
(竹下岳、洞口昇幸、山田英明)
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