2015年3月19日(木)
春闘 集中回答
国民生活の改善につながらず
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労資双方が「経済の好循環」を掲げてたたかわれた2015年春闘。金属大手の各企業が18日に出した回答は、「循環」を止めてしまうひどい回答でした。これでは、国民生活の改善も、内需拡大による景気回復も実現できず、日本経済の先行きに暗雲を広げかねません。
いま、国民生活をめぐる状況はどうでしょうか。昨年4月の消費税増税などをうけ、2014年の物価上昇率は、生鮮食品を除く総合で2・6%。今年1月の物価上昇を加味した実質賃金指数は前年同月比1・5%減となり、19カ月連続のマイナスでした。
ことしの春闘は、悪化する国民生活をふまえ、その改善をはかることが課題でした。
しかし、連合が掲げた春闘要求は2%(定期昇給相当額とあわせて4%以上)。物価上昇を下回る低額要求でした。昨年の春闘で4年連続したベースアップ(ベア)ゼロ要求を脱して、今年で2年連続となるベアを要求したものの、水準は控えめなものでした。
それだけに、企業側には最低でも満額回答が求められていました。
個人消費は、GDP(国内総生産)の6割を占めます。内需を拡大し、「経済の好循環」を実現できるかどうかは、個人消費の拡大にかかっています。そのカギをにぎっているのが、賃上げだということは共通の認識になっています。
回答を受けて、マスコミは「春闘最高ベアの波」(「読売」18日夕)、「ベア昨年超え相次ぐ」(「毎日」18日夕)、「賃上げの春再び」(「日経」18日夕)などと持ち上げています。しかし、低額要求すら下回る回答では、労働者の生活改善には届かず、「デフレからの脱却」「経済の好循環」を実現できないことは明らかです。
トヨタ自動車の上田達郎常務役員は会見で、4000円の回答について「経済の好循環への企業としての貢献と、組合員の並々ならぬ努力に報いるため」とのべ、「ぎりぎりの限界だった」と語りました。
どこが「ぎりぎりの限界」なのか。トヨタは2015年3月期決算で、連結営業利益を過去最高の2兆7000億円と見込んいます。満額回答の条件も、下請企業のベアを実現するために単価を引き上げる条件も、十分にあります。
ドイツでは2月、自動車・電機産業の労働者を代表する金属産業労組(IGメタル)が、使用者団体と3・4%の賃上げで合意しました。2014年のインフレ率0・9%の4倍弱です。IGメタルは労働協約交渉で5・5%の賃上げを要求。使用者側の2%賃上げ案を拒否して、各地で警告ストを実施し、勝ち取りました。
今春闘で問題になったのは、消費税増税分をどうみるかという点です。経団連は、消費税増税による物価上昇2%分を全体の物価上昇から差し引いて交渉するよう要求。連合も「消費税(増税)は、負担の分かち合いであり、自動的には要求しない」(古賀伸明会長)との立場で実質の生活悪化に目を向けませんでした。今後の要求設定の議論をすすめるうえで、重要な課題を残しました。
労働総研の春闘提言は、物価上昇の見通し、消費税増税の影響、直接税、社会保障費の負担増などに対応して、最低限6%(1万8000円以上)の賃上げがなければ生活を守ることはできないとしています。
来年以降も、引き続く大幅賃上げが求められています。
(行沢寛史)