2015年3月6日(金)
きょうの潮流
きょうは啓蟄(けいちつ)。冬ごもりしていた虫たちが戸を開くように、もぞもぞと姿を現し出すころ。ひと雨ごとに暖かくなり、虫にかぎらず、さまざまな生きものがめざめ始めます▼東日本の被災地にも4年目の春がめぐってきます。福島の三春(みはる)町で開花の便りを心待ちにする人がいます。国の天然記念物「三春滝桜」の子孫樹を増やしつづける近内(こんない)耕一さんです。苗木を買ってくれた人たちから届く「咲いた」という便りが心の花だといいます▼「安心して空気を吸って/安心して食べものを食べて/安心して子育てをして/安心して眠る/二〇一一年に気がつきました/それがどんなに幸せなことだったのか」(「いのち」)。福島の二本松市に住む、あらお・しゅんすけさんの詩です▼同じ市の仮設住宅で避難生活を送る浪江町の漁師、桜井治さんは一日も早い漁の再開を夢見ています。「仮設での生活は鳥かごに入れられたカモメのようだ。海の香りもしない、魚の群れも追えない、かごの鳥」▼紹介した3人は本紙の連載に登場しました。いずれも被害者のままでは終わらず、生活を返せ、ふるさとを返せ、原発はいらない、とたたかっています。その姿が一冊の本にまとまりました。『原発ゼロへ 福島に生きる』▼被災者が負った心の傷をくみとってきた社会部の記者は「これからも福島の人びとと、ともに生き、その思いを伝え、原発ゼロを実現するために取材をつづけたい」。被災者に寄り添い、すべてのいのちと相いれない原発への告発です。