2015年2月28日(土)
インドの土地収用法改定案
「畑を守れ」農民反発
野党 “大企業に資産明け渡す”
【ニューデリー=安川崇】このほど開会したインド国会で、政府による土地収用法の改定案が大きな争点になっています。開発事業の用地を、地権者である農民の同意を得ずに収用できるとする政府案に、全国の農民団体が猛反発。連立与党内からも反対が相次ぎました。「開発・発展」を掲げるモディ政権の「改革」政策の柱ですが、その開発モデルそのものを問う声も上がり始めました。
|
24日、国会議事堂近くの路上を、各州から集まった約2千人の農民らが埋めました。ステージから、北部の穀倉地帯パンジャブ州の農民代表が叫びます。
「貧しい農民の畑を政府が奪って大企業に売る。これを政府が『開発』と呼ぶなら、モディ氏は貧しい者のための首相ではない」
参加者は拍手で応じました。
民間開発にも
問題の改定案は昨年12月、インド人民党(BJP)政権が大統領令として発布しました。植民地時代の1894年に制定された土地収用法は「公共目的」で政府が土地を利用する場合なら地権者の同意を不要としていますが、改定案はこの範囲を産業開発や国防などの5分野に拡大します。
しかも民間プロジェクトにも適用されるため、野党は「大企業と不動産王に農民の資産を明け渡す」「植民地時代より悪い」(インド共産党〈マルクス主義〉=CPIMの声明)と批判しています。
同国では巨大プラント建設で土地を追われる農民が反発し紛争化するケースが後を絶ちません。スムーズに土地を調達したい財界は、政府の改定案に期待しているとされます。
大統領令はすでに効力を持ちますが、3月までに上下院の承認を得られなければ失効します。下院で単独過半数を持つBJPは24日、野党の反対を押し切り、改定案を改めて下院に提出。採決に進む構えです。上院では連立与党が過半数を割っているため否決される見通しですが、政府はそれを受けて開かれる両院協議会での可決・成立を狙います。
ひろがる運動
一方、政府の強硬姿勢への反発は農民にとどまらず広がっています。冒頭の集会では人権団体や野党の幹部ら数十人がステージに上り、反核団体や労組も参加しました。
巨大ダム開発で住んでいる土地を追われた部族民の権利擁護に取り組んできた人権団体のメダ・パトカル氏は「農地問題だけでなく、『開発』の名の下に行われた人権侵害とたたかうすべての組織・政党が手をつなぎ、資本中心の経済政策に抗う時だ」と語ります。
政府にとって頭が痛いのは、BJP系列の農民団体もこれに参加していることです。与党連合の複数の地域政党幹部も現地紙に「私たちは農民の票で当選してきた。与党内ではあるが、この改定案はのめない」と語っています。