2015年2月25日(水)
西川農水相辞任 幕引き許されない
「献金は返した」「内閣に迷惑をかけてはいけないので辞表を出した」―。西川公也前農水相は、政治資金規正法に違反するカネを受け取っておいて、こんな弁明で済むものではありません。徹底的な真相解明とともに、西川氏を農水相に起用した安倍首相の任命責任も厳しく問われています。
真相究明に背向ける態度
癒着の疑惑 説明責任果たせ
みずからが代表を務める政党支部のあいつぐ政治資金疑惑で、辞任した西川公也前農水相は、「法律に触れることはまったくない」と居直りました。しかし、西川氏は説明責任を果たしておらず、辞任で幕引きすることは許されません。
積極的に推進
西川氏の疑惑の核心は、国の補助金を受給した企業や関連会社から違法な献金を受け取っていたことです。
西川氏が代表を務める「自民党栃木県第2選挙区支部」は、2012年9月20日、栃木県鹿沼市の木材加工会社「テクノウッドワークス」から300万円の献金を受け取っています。
テクノ社は、林業振興や森林保護のため、09年5月に創設された林野庁の「森林整備加速化・林業再生事業」で補助金を受けることが12年5月に決まり、同年9月と11月の2回にわたり、計7億円の補助金を交付されました。
政治資金規正法22条の3(寄付の質的制限)は、国の補助金を受けた企業に対し、交付決定後1年間の献金を禁じています。献金した側も、補助金が交付されていることを知って献金を受け取った側も、「3年以下の禁錮または50万円以下の罰金」が同法26条の2で規定されています。
西川氏は、23日の衆院予算委員会で「寄付も補助金の交付もまったく知らない状態だった」と従来どおりの説明をしました。しかし、同日、09年の総選挙で落選し、「経済的に大変な状況が長く続いていた。困っているだろうから、あなたを支援したい」といわれ、テクノ社の顧問を務めていたことを新たに認めています。
顧問を務める会社が、補助金を受けたり、自分に献金をしていたことも知らなかったという言い訳はとても通用しません。
しかも、西川氏は14年9月の農水相就任後、国会で、「この事業が継続するよう努力したい」(同年10月16日、参院農水委員会)と答弁するなど森林整備加速化・林業再生事業を積極的に推進してきました。
ワイロ性濃い
第2選挙区支部に13年7月17日に100万円の献金していたのは、砂糖業界の団体「精糖工業会」が運営するビル管理会社「精糖工業会館」です。
精糖工業会は、13年3月、農水省の「さとうきび等安定生産体制緊急確立事業」で13億円の補助金交付が決まりました。
西川氏は、「工業会館は、工業会とは別法人で補助金交付団体ではない」といいはりましたが、トップは同一人物で所在地も同じ。工業会が工業会館を迂(う)回(かい)して献金したとみるのが、自然です。
国内産の砂糖は、環太平洋連携協定(TPP)で日本が関税撤廃の例外とするよう求める農産品の「重要5項目」の一つで、自民党の農業基本政策委員長やTPP対策委員長、農水相を務めた西川氏への献金は、見返りを求めたワイロ性の濃い献金といえます。
西川氏は、昨年9月の農水相就任後に発覚した和牛商法事件の安愚楽牧場からの125万円の献金についても、今回の疑惑の献金についても、「すべて返金した」として、真相究明にフタをしようとしています。
しかし、いずれも有力な農水族議員として活動してきた西川氏の関係業界との癒着が疑われる献金です。「返した」ですむ問題ではありません。
西川氏は、辞表提出後、「いくら説明しても分からない人は分からない」と問題視する方が悪いと言わんばかりの態度をみせました。これは、「国民の疑惑を招くことのないように」とする政治資金規正法の趣旨に反するものです。(藤沢忠明)
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首相「任命責任」口先だけ
「政治とカネ」 体質にメスを
西川公也農水相が閣僚を辞任しました。第2次安倍内閣発足以降、小渕優子経済産業相、松島みどり法相に続き3人目の辞任です。わずかな期間に、3人もの閣僚が相次いで辞任する異例な事態です。
総選挙前から
西川氏の「政治とカネ」の問題は、昨年の総選挙前から明らかになっていました。
しかし、安倍首相は何らただすことなく、選挙後は農水相に再任。今通常国会で、国の補助金受給企業からの献金受け取りという新たな疑惑が明らかになっても、「西川大臣はきちんと説明している」とかばい続けてきました。疑惑を抱えた西川氏を閣僚にすえ続けたことの一つをとってみても、安倍首相の任命責任は重大です。
安倍首相は「任命責任は私にある」とコメントしましたが、当の西川氏は「いくら説明をしても、分からない人には分からない」などと開き直り、自らの説明責任を完全に放棄しています。安倍首相は、疑惑を徹底調査し、西川氏に国民に対する説明責任を果たさせるとともに、自らの責任も明確にする必要があります。
変わらぬ体質
安倍政権のもとで「政治とカネ」をめぐる疑惑が相次ぐ背景には、事実関係を明らかにせず、閣僚の辞任だけで幕引きをはかってきた安倍首相の姿勢があります。
2006年に発足した第1次安倍政権でも佐田玄一郎行革担当相を筆頭にドミノ倒しのように閣僚が辞任していきました。こうした事態を改めるためには、「政治とカネ」をめぐる自民党の無反省な体質にメスを入れる必要があります。
ところが、安倍首相は、自民党への企業・団体献金が政権復帰後1・5倍に増加していることを指摘されても、「(献金が)増えたのは、われわれの政策が評価された結果だ」など開き直り、ワイロ性をもち政治腐敗の温床となってきた企業・団体献金を当然のように受け取る態度を示しています。
安倍首相は23日の衆院予算委員会で「(西川氏のこれまでの説明では)国民から十分に納得をいただいていないのも事実だ」と強調しています。しかし、自らが国民の政治不信を招いたことへの真(しん)摯(し)な反省はなく、政治腐敗の温床となってきた企業・団体献金に切り込む意思も示していません。
安倍首相が、真相解明を求める国民の声に背いて、またしても閣僚辞任で疑惑にふたをして決着を図るのであれば、首相としての資質そのものが問われることになります。(佐藤高志)
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