2015年1月4日(日)
ルネサスのリストラはね返す
2人の女性を元の職場へ
電機・情報ユニオン
「あなたはこの職場に必要ない」―。身を粉にして働いてきた労働者を、容赦なくリストラに追い込む半導体大手、ルネサスエレクトロニクス。労働者を人として扱わない企業のふるまいに、労働者、労働組合、日本共産党が手を結んでたたかって攻撃をはね返し、リストラにさらされる労働者を励ましています。(堤由紀子)
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昨年12月24日。クリスマスイブでにぎわう東京の真ん中で、電機・情報ユニオンと会社側による、この年最後の団体交渉がおこなわれました。
いつもは1時間半の交渉ですが、この日は2時間を確保。東京都小平市の武蔵事業所から群馬県高崎市の高崎事業所まで、遠距離通勤を強いられている2人の女性の配置転換撤回が、大きな議題でした。1人は新幹線で、もう1人は高速道路を使っての通勤です。
2人はまだ子育て中、夫は単身赴任に追い込まれています。育児・介護休業法の第26条では、「労働者の配置に関する配慮」として、事業者が労働者を転勤させる場合、子育てや介護が困難となる労働者に配慮しなければならないとしています。
過酷な通勤が
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今回の配転は、育児・介護休業法に違反する恐れがあります。2人は組合に加入し、厚生労働省東京労働局に対し、ルネサスへの助言・指導をおこなうよう求めてきました。
過酷な通勤で、2人の女性の健康は悪化しています。新幹線通勤の女性は、最寄り駅までのバス代が支給されず、30分も歩かなければならないため、膝の痛みが消えません。高速道路を使って通勤する女性は、長時間の運転による緊張感と疲れから頭痛に悩まされています。
2人の望みはただ一つ。「早く元の職場に戻してほしい」
ときには食事に誘い、2人の相談に乗ってきた電機・情報ユニオンの谷口よし子さんは怒りを隠せません。
「1日5時間も通勤させるなんて、普通では考えられません。高速料金を出そうともしない会社の対応に、経済的にも困り果てています。女性は働き続けるな、と言っているに等しいじゃないですか」
労働局動かす
再三の要望にもかかわらず、東京労働局は「指導・助言はしない」と繰り返してきました。しかし、日本共産党国会議員団による要請や、国会質問など粘り強いたたかいを通じて、東京労働局が動きました。ルネサスに対し4度にわたって2人の配転撤回を求めたのです。
団交では、このことも議題になりました。4度目となった12月19日の指導では、東京労働局が「今までで最高の助言・指導をしたが、会社はうんと言わない」と本人に電話で伝えてきました。
苦しい立場に追い込まれたルネサス。ついに団交で、一歩踏み込んだ回答をしました。
「要望はうかがった。総合的に対応したい」
「10か条」を握りしめ
「ルネサスで働く皆さん、おはようございます。1人でも入れる電機・情報ユニオンです」
昨年12月24日、ルネサスエレクトロニクスとの団体交渉を控えた朝。電機・情報ユニオンは、東京都小平市の武蔵事業所前で1年を締めくくる宣伝をおこないました。底冷えのする中の「職場新聞」配りです。わざわざ回り道をして近寄り受け取る人。受け取って広げ、読みながら職場に向かう人。「ご苦労さまです」と声をかけていく姿も。1時間で342枚を手渡しました。
出勤する労働者が積極的にビラを受け取るには、わけがあります。一つは、会社の動向や退職強要に立ち向かうすべが丁寧に書かれているから。もう一つは、こまめに宣伝し、親身になって労働者の相談に乗るという、たたかう組合の姿を見せてきたから。
退職強要を受けた労働者に活用されているのが、「退職強要防止10か条」です。ビラにのせて配り、組合のホームページからダウンロードすることもできます。退職を強要する“面談”が一気にすすめられた時期は、ホームページへのアクセス数が飛躍的に伸びました。
「10か条」の最後は、「困ったときは、電機・情報ユニオンに相談ください」と呼びかけ。この「10か条」を握りしめて相談に来る労働者が後を絶ちません。
配転4日目に“面談”
12月9日から19日までおこなわれた1800人の希望退職募集にむけ、各部署で“面談”がすすめられました。転勤できそうにない事業所への配転や、従来の業務とは異なる職種への転換などの可能性を提示し、おどしもかけました。
“面談”で労働者にかけられる決まり文句は、「あなたはこの職場には必要ない」。
ある男性労働者は、都内の事業所から群馬県高崎市の事業所に単身赴任して4日目に、退職強要の“面談”にあいました。やむなく配転に応じ、気分を切り替えて「さあ、仕事だ」と意気込んでいた矢先でした。
厳しい選択を迫られ、退職を選んだ相談者もいます。
「辞めないんなら、辞めなくてもいいですよ」と言われた女性は、「でも2月1日からは武蔵にいられないよ。高崎に2人行ってるの知ってるかい?」と2人の遠距離通勤を引き合いに出されました。組合にも入りました。が、悩んだあげく、早期退職締め切り日の12月19日に「辞めます」…。
「一緒にがんばれる道はあるのに、おどかされるとダメだと思っちゃう。会社のやり口はひどすぎる」
電機・情報ユニオン東京支部の谷口利男書記長は悔しがります。
国会追及で議場騒然
ルネサスの営業利益は505億円(昨年4月1日から9月30日まで)。リストラは、経営の厳しさによるものではありません。利益率10%という目標を達成するための、容赦のない首切りです。
ルネサスには8社が合計で1500億円を出資。このうち7割の株を、産業革新機構が保有します。産業革新機構は、産業競争力強化法にもとづき設立された官民ファンド。国の政策にもとづき政府と民間が出資するしくみです。
同機構がかかわるようになり、リストラが一気に加速しました。国がルネサスのリストラを強力に後押ししているのです。
こうした中で、日本共産党の国会議員の追及は、厚生労働省を動かす大きな力になりました。
退職を拒否し、遠距離通勤を強いられている女性2人を、一刻も早く元の職場に戻さなければならない…。小池晃参院議員は、電機・情報ユニオンとともに、ルネサスへの助言・指導をするよう、厚生労働省に繰り返し要請しました。
昨年10月21日の厚生労働委員会で小池氏は、ルネサスの退職強要と遠隔地配転の実態を告発。厚労省に強く対応を求めました。塩崎恭久厚労相が「公平中立的な立場で引き続いて援助するように指導してまいりたい」とのべるにとどまったことに対し、小池氏は「こんなことがまかり通ったら法律も何もないじゃないか」と追及。委員会は騒然となり、審議が止まりました。
やりとりの結果、塩崎厚労相は「事実関係を調べる」と答弁するに至りました。
こうした国会内外でのたたかいの成果が、東京労働局による4度にわたる配転撤回の助言・指導へと実を結びました。
企業の発展にむけて
リストラをやめさせるたたかいは、新たな段階に入っています。労災申請です。
2人の女性の健康状態は悪化しています。ところが、年末の団交で会社側は「加齢のせい」などと発言。電機・情報ユニオンが「こんな状態に追い込んだ会社の責任は大きい。労災になったらどうするのか」とたたみかけると、会社側は黙って聞いていました。
引き続く国会での論戦も、運動を力強く押し上げます。
「私たちの味方として追及の手を緩めない日本共産党が、総選挙で大躍進したことは、本当に心強い」と電機・情報ユニオンの米田徳治委員長。「労働者が自由にものをいえず、パワハラとも思える手口で退職に追い込むような企業のままでは、発展しない。私たちはたたかい続けます」
ルネサス 正式名称は、ルネサスエレクトロニクス株式会社。2003年、日立製作所と三菱電機がルネサステクノロジを設立。10年にNECエレクトロニクスと事業統合して誕生した、半導体メーカーです。
電機・情報ユニオン作成 退職強要防止10か条
「辞めません」■抗議・黙秘■相談して
退職強要を受けたら以下の10か条で辞めない意思を伝えましょう。
1.「辞めません」とはっきり言う
退職勧奨に及ぶいっさいの言動に対して「辞めません」とはねつけましょう。
2.やっぱり「辞めません」
辞めない理由を言うとつけ込まれる。「辞めません」が最強です。
3.退職強要には、きっぱり抗議を
「辞めません」と言っているのに、繰り返し呼び出すのは違法な権利侵害です。
4.人権じゅうりんには厳重に抗議を
別室に閉じ込めたり、仕事を取り上げたりすることは人権じゅうりんです。その事実を必ずメモにしておきましょう。
5.出向・配転・転籍も断る
辞めないと出向・配転がやられるというのなら、「その時考えます」と答えましょう。
6.会社より自分の生活が大変
「会社が大変だ」と言われたら、「私の生活のほうが大変です。会社復活のために頑張らせてください」といいましょう。
7.おだてにのらず、謙虚に拒否を
「社外に転進してみろ」と言われたら、「あなたがどうぞ」と言いましょう。
8.家族は退職に反対です
短気は損気。頭に来たら負けです。家族と子どもを思い浮かべて踏みとどまりましょう。
9.最後は黙秘でがんばりましょう
会社の説得に詰まったら「とにかく辞めません」と言い続けて、後は、黙っていましょう。
10.電機・情報ユニオンに相談をしてください
困ったときは、一人で悩んでいても解決方法は見つかりません。電機・情報ユニオンに相談ください。