2014年12月10日(水)
きょうの潮流
首位は「妖怪ウォッチ」攻略本―。情報会社が発表した今年のベストセラーを見ると、子どもに人気の本や、健康、啓発ものが上位に並んでいます▼3年連続でミリオンセラーは生まれず、関係者も「お寒い状況に歯止めがかからない」。出版市場も縮小傾向がつづき、書店の数も減る一方。この十数年の間に、8千店が閉じたという調査もあります▼少子化や若者の読書離れ、電子書籍の普及…。出版界を取り巻く現状はきびしい。しかし、そこに携わる人たちから新しい動きも表れています。国の文化の土台をつくる本を守り、正しく受け継いでいこうと▼今年5月。河出書房新社が「今、この国を考える―『嫌』でもなく、『呆』でもなく」と題する選書フェアを呼びかけ、すぐに100店舗をこえる書店から申し込みがありました。売れるからと「嫌中」「呆韓」をあおり、ヘイトスピーチが常態化し、「愛国」が氾濫する昨今。出版する側の責任として、ちがう視点を提示したいとの試みでした▼「差別や憎しみを飯の種にしたくない」「私たちの愛する書店という空間を、憎しみの言葉であふれさせたくない」。ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会も立ち上がっています▼差別を誘発し、助長させるヘイト本と向き合い、良識のブレーキをかけよう。かつてないほど本のあり方が問われている時代に示した出版人の心意気です。良書をひろげ、文化を支え、それを未来へと伝えていく。そこに「本の力」があるはずです。