2014年11月24日(月)
きょうの潮流
「山が高いからといって引き返してはならない。行けば必ず越えられる」。モンゴルに伝わることわざです。困難や失敗にもあきらめず、目標に挑み続ける。その大切さを説いたのでしょう▼山の頂はそれぞれですが、モンゴルから日本の大相撲にとびこんだ少年が乗り越えてきた壁はどれほどか。横綱白鵬が、誰も追いつけないといわれた大鵬の最多優勝回数についに肩を並べました▼末っ子で甘えん坊だった15歳が角界入りしてから14年。モヤシのように細かった体は四股、鉄砲、すり足といった伝統稽古で鍛え上げられ、大きく、強く、柔らかに。番付が上がるにつれ、「心」の稽古に重きを置くようになりました▼大関や横綱への昇進のたびに味わった挫折。そして噴出した角界の不祥事。試練の山が次々に立ちはだかりました。土俵に上がったら無心になる。相撲の流れにしたがい、体が自然に動くに任せる。白鵬が何よりもこだわってきたのは心・技・体の充実でした▼32回の優勝のなかには悲しみの涙を流したことも。4年前の名古屋場所。野球賭博問題でテレビの生中継も優勝杯もなし。異常な雰囲気の中で一人横綱の重責をまっとうしながら、支えてくれるファンや相撲の意味について深く考えたといいます▼「誰からも愛され、相手の気持ちもわかる、優しさのにじみ出るような横綱になってほしい。強くて、心の温かい横綱に」。相撲を愛し愛されてきた少年の胸には、師と仰いだ大鵬から送られた言葉がいつも宿っています。