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2014年11月19日(水)

きょうの潮流

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 次回作は親子を描いた感動の物語になるはずだったといいます。長く組んできた降旗康男監督との新作。来春の撮影を控えながら、それはかないませんでした▼「往(ゆ)く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」。そんな座右の銘を残し、日本を代表する俳優が旅立ちました。映画全盛期にデビューして以来、60年近くにわたり、武骨で人間味あふれる男の生き方を演じてきた高倉健さんが亡くなりました▼出演作品は205本。東日本大震災後に降旗監督とつくった「あなたへ」が遺作に。妻に先立たれた健さん演じる主人公が、散骨のために故郷を訪ねる。妻との思い出をたどり、出会った人たちと通じ合う。想(おも)いがにじんだ背が余情を漂わせました▼被災の状況に気持ちが弱りかけたという健さん。しかし、がれきのなかを歩く1枚の写真を見て変わります。両手に水が入った容器を握り、口元を引き締め、足を踏み出す少年。その姿に胸の奥から熱情がほとばしった、と(『高倉健インタヴューズ』)▼寡黙や孤独さが代名詞のようにいわれながら、人一倍の優しさや熱い思いを秘めていました。演技で大切にしたのは「気」。セリフではなく、彼の気が立ちのぼったとき、見る者を揺さぶる何かが伝わってきました▼体の動きを見せる芝居から心の動きを見せる役者へ。晩年になるほど出る作品を選んでいた健さん。何よりも、自分自身の生き方にこだわっていました。83年の人生でたった一つあげた大事なもの。それは「心の美しさ」でした。


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