2014年11月15日(土)
主張
新宇宙基本計画案
軍事一辺倒の暴走許されない
日本の小惑星探査機「はやぶさ」の活躍や相次ぐ小型衛星の打ち上げなど、宇宙の話題にはいつも夢とロマンをかきたてられます。ところが、世界に誇る成果をあげてきた日本の宇宙科学・探査分野や民生分野が、後景に押しやられる事態になっています。
安倍晋三内閣が作成中の新しい「宇宙基本計画」の素案で、自衛隊の部隊運用や日米同盟強化のための宇宙システム整備など「宇宙安全保障の確保」を最重点の課題と位置づけ、軍事一辺倒の内容を持ち出してきたのです。
首相じきじきの指示で
宇宙基本計画は、宇宙基本法にもとづき、今後の宇宙開発利用計画を定めるものです。自民党政権は2008年に制定した宇宙基本法で、それまでの科学技術・研究開発主導の宇宙政策を転換し、「産業振興」や「安全保障」を戦略に掲げました。現在の宇宙基本計画は昨年1月に策定されています。安倍政権がわずか2年足らずで見直すことになったのは、「安倍政権の安全保障政策を十分反映する」とともに、宇宙産業基盤を強化するという首相じきじきの指示によるものです。まさに宇宙の軍事利用の暴走です。
実際、内閣府がまとめた素案で前面に出てきたのが、「宇宙協力を通じた日米同盟の強化」です。弾道ミサイル防衛で敵のミサイル発射を探知する「早期警戒衛星」の調査研究、他国の軍事衛星や宇宙ごみを監視する「宇宙状況把握」の体制確立と情報共有化、部隊運用やミサイル誘導に不可欠なGPS(米軍が運用する全地球測位システム)と日本の測位衛星の連携―などを掲げています。
また「産業界の投資の予見可能性を高める」ため、計画の工程表にそった人工衛星の開発を盛り込んでいます。国の衛星の打ち上げでは国産ロケットを優先し、産業基盤を維持するとしています。目標とする宇宙機器産業の事業規模は、官民合わせて10年間で5兆円です。まさに米軍といっしょに世界で戦争できる態勢をつくるとともに、財界の要望に応えて軍需を突破口に産業基盤を強化する狙いを具体化したものです。
素案では、測位衛星の7機体制の確立、情報収集衛星(軍事スパイ衛星)の機数増、自衛隊の衛星通信網確立など軍事に関わる開発計画がずらり並びます。民生分野にも「安全保障用途への活用可能性を念頭に」取り組むよう網をかけます。宇宙航空研究開発機構(JAXA)や大学、メーカーなどの宇宙技術の軍事転用が心配されます。研究が軍事に近い分野に誘導されるなど、学問をゆがめることにもなりかねません。
非軍事の原点に立ち返れ
日本の宇宙開発は1969年の全会一致での国会決議いらい、非軍事に限られてきました。憲法9条にもとづき平和目的に限定し、原子力と同じく「自主・民主・公開」を原則としてきました。平和目的に限定したからこそ、軍事機密に制約されず、民生用機器として開発・普及が進み、コストダウンにも成功したのです。
安全保障分野に偏った開発が国民に役立たないことは、1兆円を投じた情報収集衛星の撮影画像が東日本大震災で非公開だったことからも明らかです。平和と国民生活を破壊する軍事利用はやめ、非軍事の原点に立ち戻るべきです。