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2014年11月12日(水)

2014 とくほう・特報

奨学金がローン地獄の入り口に

卒業後返済額750万円■バイトかけ持ちでも返せず■将来設計立たない…

救済制度の拡充は急務

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 「就職に失敗し、奨学金の返済が不安」「借りたくても、返せるか不安でがまんしている」―。若者の希望を後押しする奨学金が、若者を苦しめるという正反対の結果をうみだしています。日本共産党は、「学生が安心して使える奨学金に」(10月7日)を発表しました。奨学金をめぐる実態と課題をさぐります。

 (岡村千尋=党青年・学生委員会、染矢ゆう子)


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 広島市の公立大学に通う1年生の女性(18)は、毎月12万円の奨学金を借りて、1人暮らしをしています。有利子なので、卒業後の返済は約750万円になります。

 志望していた県外の大学を経済的な理由からあきらめ、似た学部のある県内の大学に進学しました。いま「多額の奨学金を借りたのだから、しっかり勉強しないといけない」と思いつつ、「学びたかったことが学べず、大学に行くのがつらい」と悩んでいます。

 女性は、学費軽減をめざす「学費ZEROプロジェクトひろしま」のメンバーとして、6月、文部科学省に「家にお金がないからと、学生が進路をあきらめるのはおかしい。給付奨学金にしたり、学費を下げたりすべきです」と訴えました。

 横浜市に住む森あかねさん(27歳、仮名)は、高校と大学であわせて約280万円の奨学金を借りました。私立大学を卒業後、アルバイトを二つしながら毎月1万1000円、7月と12月には2万3000円を返済してきました。

 週に6日、長いときは午前7時から午後5時まで、その後、午後6時から午前1時まで計17時間働いていたときもありました。時給850円のアルバイト一つでは月収は10万円に届かないからです。

 それだけ働いても月末の返済期限には貯金が残り数十円になり、当月分を振り込めません。日本学生支援機構から延滞分の回収を委託されている「日立キャピタル債権回収」から「振り込みをお願いします」「3回続くと一括返済になります」と、毎月のように督促の電話がきました。

 連日の深夜バイトで月経異常と貧血が続いても、食費を節約するため、パンの耳を食べることも。苦しいアルバイト生活を3年続け、やっと正社員になって体調も回復し、結婚を考えられるようになりました。しかし婚約者にも奨学金の返済があります。2人あわせて400万円以上です。

 「借金を背負ったままの結婚生活では、子どもや家の計画が立ちません。困ったらいつでも猶予できるなど安心して返せるようにしてほしい」と願います。

学生半数利用 7割が有利子

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 これらの事例は特別なものではありません。

 奨学金は、1998年から2014年の間に、貸与額で4・9倍、貸与人員で3・7倍と急速に拡大し、学生の2人に1人が利用しています。

 平均利用額は約300万円で、500万〜700万円を借りる学生も少なくありません。

 しかも、奨学金の75%は有利子です(年利最大3%)。290万円を有利子で借りると、利子分をくわえた返済総額は380万円以上にふくれあがります。

 卒業しても、安定した雇用が保障されているわけではありません。大学などを卒業した30〜50代の約3人に1人が年収300万円以下(総務省調査)という状況のもと、奨学金を利用した8人に1人が返済を延滞または猶予せざるをえません。

 しかし、返済が困難になった場合の救済措置は不十分です。

 年収300万円以下の場合に、返済を猶予できますが、最長で10年しか利用できず、「10年の猶予が切れたら、一括全額返済で自己破産」というリスクがつきまといます。また、年収が300万円を超えれば、一律に返済しなければならないため、「少ない給料から月3万円以上を返済。生活がカツカツ」など、家計を圧迫しています。

 猶予制度など現行の救済措置さえ、知られていないことも問題です。延滞者の57・1%が「猶予制度を知らなかった」と回答。

 先の森さんも年収300万円以下でしたが、猶予制度をよく知らずに“無理をして”返済していました。猶予制度を知らずに返済が滞り、延滞金がかさんでさらに困難に―、奨学金がローン地獄の入り口になっています。

 日本学生支援機構労働組合の岡村稔書記次長は、「返済困難などの相談には、本来は正規職員が解決するまで対応すべきだが、いまは相談窓口が外注され、公共サービスを担う十分な体制がとれない。政府が“効率化”をすすめ、奨学金にたずさわる正規職員は約200人とイギリスの5分の1にまで削減されている」といいます。

 奨学金が若者を苦しめている現状に、文部科学省が設置した「学生の経済的支援の在り方に関する検討会」も「貸与型奨学金の返還の不安を軽減していくことが重要」「無利子奨学金を基本とする姿を目指すべき」だという報告書を出しました。(8月29日)

 現在返済している人の負担と、学生の不安を軽減する改革が急がれます。


雇用環境に応じた改革が必要

奨学金問題対策全国会議事務局長

岩重佳治弁護士

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 いまの奨学金制度の一番の問題は、雇用環境の変化に対応していないことにあります。これまで前提としてきた“安定雇用”が崩れているのに、従来どおりの返済を求めているために返済困難者が続出しているのです。

 そもそも奨学金は、一般的な借金とは違います。将来の返済可能性がわからない段階で貸しているのですから、すべてを回収できないことは想定しておくべきです。にもかかわらず、金融の論理をあてはめて、「借りたものは返せ」と民間の債権回収会社に委託してサラ金まがいの取り立てをしたり、延滞金を課したりしても、うまくいくはずがありません。延滞者の8割は年収300万円未満なのです。返済能力のない若者を追いつめるのはやめ、能力に応じて返済できるようにすべきです。

 若者が多額の奨学金を借りなければならない背景には、高い学費と「進学して利益を得るのは個人」という受益者負担論があります。しかし民間企業はもちろん、医療や介護など身近な分野を見ても、大学などで学んだ若者に支えられています。若者を育てるのは社会全体の責任という視点がいよいよ大事になっていると思います。

 その点で、日本共産党の奨学金政策に貫かれている考え方に大いに共感します。政策の三つの柱は実態に即しており、一つひとつ実現されていけば、制度そのものを変える力になると思います。


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