2014年10月11日(土)
きょうの潮流
アスベスト(石綿)はギリシャ語で「永遠に不滅の」という意味があります。火をつけても燃えないで残ることから、この名前が付いたといわれます▼大昔から利用され、古代エジプトではミイラを包む布に、ギリシャやローマではランプの芯に使われてきました。石綿は天然鉱物で耐火や断熱、絶縁性に優れ、柔軟で強い性質をもつことから「奇跡の鉱物」ともてはやされました▼日本では戦前、主に軍需産業で使用が拡大。戦後は輸入が増えつづけ、その量は1000万トンにも上ります。安価なこともあり、建材だけでなくあらゆる製品に用いられ、日常生活にあふれました▼しかし、魔法の鉱物は人体に有害でした。髪の毛の5千分の1ほども細かい石綿の繊維は飛び散りやすい。吸い込んだ粉塵(ふんじん)は体内にとどまり、肺がんや中皮腫などを引き起こします。潜伏期間が数十年にも及ぶ「静かな時限爆弾」だったのです▼1世紀にわたって、その石綿産業が集中したのが、国内で最初にアスベスト紡織工場が建てられた大阪の泉南地域でした。点在する工場の床には石綿の粉が雪のように堆積し、舞い上がる。労働者のまゆ毛や鼻の穴も真っ白になっていたといいます▼働いていた労働者や遺族が起こした泉南訴訟。最高裁は、対策を怠ったとして国の責任を初めて認めました。各地で同様の裁判がつづくいま、亡くなった人たちや苦しみつづける被害者のためにも、石綿のない社会を実現するためにも、解決に向けた国の対応が問われています。