2014年9月13日(土)
米の「イスラム国」壊滅作戦
空爆拡大で緊張激化 多数の民間人犠牲に
イラクの識者語る
【カイロ=小泉大介】米国のオバマ大統領が過激派組織「イスラム国」を壊滅するため、空爆をイラクとシリアの双方で強化・拡大する方針を表明したことに対し、当事国でも長期的には事態をさらに悪化させると、反対の声が上がっています。
「米軍は11年前に『対テロ』戦争の一環としてイラク侵略を強行しました。その結果、テロや過激派の行動は収束に向かったでしょうか。現在、イスラム国が、わがもの顔でばっこしているように、事態はさらに悪化しているのが現実です。米政府は何度、同じ過ちを繰り返そうというのでしょうか」
民間シンクタンク・「イラク戦略研究グループ」のワフィク・ハシミ代表は本紙の取材に、こう話しました。
オバマ米大統領は10日の演説で、「われわれはイスラム国を弱体化させ、最終的に壊滅させる」と述べ、イラクとシリアで「体系的な空爆」を実施すると表明しました。
「憎しみを増幅」
ハシミ氏はこの米国の姿勢の問題点について、「イスラム国を壊滅するとなれば、市街地をも空爆しなければなりません。なぜならば、イスラム国はイラク領土の約3割を支配し、(イラク第2の人口を擁する)北部モスルをはじめ都市部も掌握しているからです。そこへの空爆が多数の民間人の犠牲をもたらすことは明らかで、それは米に対する憎しみを増幅させるだけです」と力説しました。
イラクの首都、バグダッド大学のカゼム・ミクダディ教授も同様の点を指摘しつつ、「軍事的手段によってテロ組織を壊滅することは不可能であり、それが歴史の教訓です。空爆をシリアにまで拡大すれば、地域全体の緊張を激化させ、過激派の思想と行動を拡散させることにつながります」と断言しました。
イスラム国はイスラムの教えをゆがめて住民に押し付け、異教徒や女性をはじめ民間人を迫害しており、イラクやシリアの国民の多くが同組織の排除を望んでいることは事実です。しかし、それが外国の軍事介入によっては達成されないことも、「対テロ」戦争を体験してきた人々はよく知っています。
「土壌をなくす」
それでは、軍事介入によらないイスラム国対策とは何なのか。
ミクダディ教授は、「イスラム国がイラクで台頭した要因は、米国の戦争・占領政策がもたらした宗派対立による混乱と、旧イラク軍の解体でした」と指摘。「この教訓を踏まえれば、いまこそすべての宗派や民族が参加する“救国政府”をつくりあげ、国をあげてイスラム国と対峙することが必要です。さらに政治腐敗や貧困を克服し、過激思想がはびこる土壌をなくしていくことも欠かせません」と強調しました。