2014年9月11日(木)
「理論活動教室」講師・不破哲三社研所長
●第2講「マルクスの読み方」(3)
『資本論』が解明した労働者階級の発展論
第5回「理論活動教室」が9日夜、党本部で開かれました。この日は第2講「マルクスの読み方」(全3回)の最後で、不破哲三・社会科学研究所所長が『資本論』における労働者階級の発展論や資本主義の没落過程などについて講義しました。
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不破さんは前回の講義を振り返り、マルクスは1860年代半ばに「恐慌=革命」論を乗り越えたことで、資本主義観も革命の見方も変えたと説明しました。そのことで、『資本論』で社会変革の必然性をどのように描くかが“宿題”になってくると述べました。
それは、私たちがいま読んでいる『資本論』第1部完成稿にまとまっています。マルクスは1864年の初頭に『資本論』第1部を書き上げました。しかし、革命観、資本主義観が発展したことで、従来の構成では不十分だと考え、66年1月から67年4月にかけて書き直したり、追加したりします。その大きなねらいの一つは、社会変革の主体的条件の発展をきちんと書き込むことでした。
しかもマルクスが書き直していた時期は、労働者の国際的組織、インタナショナルが活動していた時期(1864〜72年)とも重なります。不破さんは年表を追いながら「『資本論』で革命の主体的条件の発展を理論的に追究するマルクスの意思と、インタナショナルで労働者階級の発展の仕事にとりくむマルクスの実践が、相互に交流し合ったことは間違いない」と力を込めました。
不破さんは、労働者階級の発展論の前提として、「未来社会での労働」「労働本来の意義」について取りあげました。
『資本論』第1篇の最初の章「商品」のところに早くも未来社会論が出てきます。マルクスは未来社会での労働について、「自由な人々」である生産者が、生産手段を共同で持って、他の生産者と協力し、自分たちの労働力を「一つの社会的労働力」として「自覚的に」支出するものと描いているのです。
人間本来の労働について、『資本論』第3篇では「自然との物質代謝」と述べています。人間が他の動植物と違うのは、物質代謝を労働が媒介していることです。自然のものをそのまま利用するのではなく、労働で加工して取り入れ、その労働の中で自分を発達させ、いまのような頭脳と肉体をもった人類をつくりあげたことを説明しました。
不破さんは「こうした人間本来の活動が、搾取―被搾取の関係に変わったときに、非人間的なものになるんです」と述べました。
社会変革の主体として成長する「三つの必然性」
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『資本論』第1部の完成稿でマルクスは、労働者を搾取され抑圧される被害者として描くだけでなく、労働者がどういう階級として成長する必然性を持っているのかを追究しました。不破さんはそれを、「三つの必然性」と名付けて解説しました。
階級闘争の必然性
第一は階級闘争の必然性です。
『資本論』第1部第3篇の「労働日」の章で「資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も払わない」と書かれています。
実は、現代日本の会社経営者も、マルクスと同じことを述べていました。22年前にソニーの盛田昭夫会長(当時)は、日本企業の低賃金・長時間労働や下請けたたきなどの問題を個別企業で解決しようとしても、経営危機に追い込まれてしまう、だから日本の経済・社会のシステム全体を変えていくことが必要だと発言していたのです。
では、その「社会による強制」はどのように実現するのでしょうか。マルクスは『資本論』で労働日を制限する10時間工場法の制定は、労働者が選挙権も持たない時代に、階級として団結し、「半世紀にもわたる内乱」で国家を動かして勝ちとった「社会的バリケード」だと評価しました。
マルクスは、労働時間の短縮について『賃金、価格および利潤』のなかで「時間は人間の発達の場である」と指摘しました。同時期のインタナショナルは8時間労働日を求める決定をしました。中央評議会は「労働者階級、すなわち各国民中の多数者の健康と体力を回復するためにも、またこの労働者階級に、知的発達をとげ、社交や社会的・政治的活動にたずさわる可能性を保障するためにも、ぜひとも時間短縮が必要である」と決議しました。
労働時間の短縮は、資本家の心配をよそに大工業の発展をもたらしました。労働者の活力があってこそ、産業も発展することを証明したのです。
不破さんは、工場法の拡大・発展が「新しい社会の形成要素と古い社会の変革契機とを成熟させる」としたマルクスの一文を紹介し、最初の「社会的バリケード」であるイギリスの工場法から160年、今ではそれがより進んだ内容の社会的ルールとして世界中に広がっていると語りました。
1917年のロシア革命の影響で国際労働機関(ILO)が生まれました。1936年のフランス人民戦線運動のもとでゼネストがおこなわれ、有給休暇の権利が勝ちとられています。第2次大戦終結後には国際連合が結成され、ILOが新しい力を持ちました。世界人権宣言や女子差別撤廃条約なども生まれました。
新社会建設の主体に成長
第二は、労働者階級が新しい社会を建設する主体に成長する必然性です。マルクスは『資本論』第4篇で、生産が、協業―マニュファクチュア―機械制大工業へと発展する中で、労働者が生産の担い手として成長していく過程に目を向けました。
マルクスは協業することで労働者の集団的な力が発展することを指摘し、「全体労働者」と表現しました。また、集団で仕事をするためには指揮者が必要です。マルクスはその例えにオーケストラをあげています。指揮者はオーケストラを指揮しますが、支配者ではありません。共同作業に指揮者は必要ですが、支配者が必要なのは階級社会だけだと解明しました。
マニュファクチュアでは、一人ひとりの労働者は工程の一部だけをおこないます。マルクスは「多数の部分労働者から結成された全体労働者そのもの」と表現しました。
機械制大工業では、工場を動かしているのは、機械を運転する人や監督、手伝いで走り回る下働きも含めた「全体労働者」です。マルクスは、その姿を「結合された全体労働者」が「支配的な主体として現れている」ものとして描写したイギリスの経済学者の言葉も引用しています。そして、不破さんは、マルクスが『61〜63年草稿』で“機械制大工業から資本主義的所有の皮をはいだら、労働者集団が主体の生産体制が現れる”と述べたことも紹介しました。
同時に機械制大工業のもとでは、労働者が多面的な能力をもった人間として鍛えられます。
「まさに未来社会で高度な生産を担う主体が資本主義社会の中で、労働者階級の中に生まれる必然性を分析しているのです」と述べました。
社会変革の闘士になる
第三は、資本主義の発展のもと、労働者階級が社会変革の闘士となる必然性です。
『資本論』の第7篇「資本の蓄積過程」の第23章「資本主義的蓄積の一般的法則」は、「本章では、資本の増大が労働者階級の運命におよぼす影響を取り扱う」という一文で始まっています。この章について不破さんは、「完成稿で初めて執筆した章です。マルクスはこの章全体を資本主義のもとでの労働者階級の運命の探究にあてました」と述べます。
資本主義的生産の発展過程のなかで、生産手段の部分(不変資本)が技術革新によっていっそう大きくなる一方、賃金に支払われる部分(可変資本)はより小さくなっていきます。「資本の構成の高度化」とよびます。
不破さんは、ホワイトボードに「総資本」「不変資本」「可変資本」の構成の移り変わりを書きこみます。生産力が低い時には、不変資本と可変資本に半分ずつ資本が投下されていたものが、生産手段が大きくなり生産力が高くなると、可変資本の比率が4分の1にしかならない場合が出てくると説明します。
そうするとどういうことが起きてくるか。
不況時には、大量に労働市場から労働者を吐き出しますが、景気のいい時でも、技術革新が進むとその瞬間に労働者を吐き出します。好況と恐慌を繰り返しながら資本を増大(蓄積)させる資本主義が経済循環の節目節目に労働者を吐き出すのが「資本の人口法則」になるのです。マルクスは、労働市場から吐き出された労働者を、今は働いていないが資本がいつでも使える労働者として、「産業予備軍」と名付けました。
産業予備軍は、労働者階級全体にどんな影響を及ぼすのでしょうか。
産業予備軍があることによって、「あんなところに落ちたくない」と、現場の労働者はきつい労働にも我慢し、過度労働になります。そうなればなるほど、労働者が余り、産業予備軍が増えます。こうして、産業予備軍は、景気が停滞、中位の時には現場の労働者を圧迫し、過剰生産で労働者がもっと要求される時でも産業予備軍があることで労働者の要求が抑えられます。
不破さんは、「いつでも安く雇える人たちが周りにいる圧力で、労働者はしばりつけられています。これは、今ではよくわかる話です。安倍政権は、非正規雇用という仕掛けを作って、現場の労働者のなかにも『産業予備軍』をつくっています」と告発します。「失業している人と半失業の非正規雇用労働者に正規雇用労働者を取り囲まさせて、痛めつけるやり方です」
労働者はみずからの要求のために資本主義の枠内で大いに頑張りますが、資本主義では富が蓄積される一方、他方に貧困が蓄積され、格差の拡大がどうしても起きるとマルクスは分析しました。
しかし、「これは労働者の貧困化は仕方がないと、あきらめや絶望を説いた議論ではない」と不破さんは強調します。労働者は階級闘争をやり「社会的バリケード」を獲得するが、それだけでは労働者の解放になりません。資本主義の体制そのものを覆さなければ本当の解放ができないということを労働者は自覚させられる―これがマルクスが強調したことだと、指摘しました。
『資本論』の完成はインタナショナルの活動と密接不可分
資本主義の没落過程の定式
次は、資本主義の没落過程の定式です。それは、資本の誕生を分析した『資本論』第7篇第24章「いわゆる本源的蓄積」の最後の節「資本主義的蓄積の歴史的傾向」の部分に書きこまれました。
第一は、大資本がより小さな資本を収奪し吸収する資本の集中に伴う資本主義的生産の変化です。マルクスは、「労働過程の協業的形態」「共同的にのみ使用されうる労働手段への労働手段の転化」「結合された社会的な労働の生産手段としてのその使用」「世界市場」などをあげました。不破さんは「資本主義的生産の発展そのもののなかで、新しい社会の物質的基礎がどのように準備されてゆくかを列挙しています」と述べました。
第二は、「貧困、抑圧、隷属、堕落、搾取の総量は増大するが、しかしまた、絶えず膨張するところの、資本主義的生産過程そのものの機構によって訓練され結合され組織される労働者階級の反抗もまた増大する」という文章です。
不破さんは、「これが一番大事な主体的条件です。労働者階級が『訓練され結合され組織される』というなかには共産党の大きな位置づけもある」としました。紹介した『資本論』の言葉の一つひとつがマルクスのインタナショナルでの活動の発展と不可分に結びついていることを強調しました。
インタナショナルの創立大会でも「政治権力を獲得することが、労働者階級の偉大な義務となった」と宣言しました。66年には、ジュネーブ大会で、労働組合が、搾取に抵抗する当面の闘争だけではなく「労働者階級の完全な解放という広大な目的のために、労働者階級の組織化の中心として意識的に行動する」と決議しました。71年のロンドン協議会の決議では、初めて労働者階級の政党をつくることが課題として位置づけられました。
インタナショナルは1872年にヨーロッパでの活動を終えました。そこで追求された労働者階級を組織する活動の方向づけは、「恐慌=革命」論の時代には提起されなかった問題でした。恐慌の運動論の発見と革命観の大転換を通じて、マルクスの実践も変化しました。『資本論』第1部の完成稿は、この変化に対応したものでした。
「8年間の活動でこれだけの議事録が残っています」。不破さんは、インタナショナルの議事録を収めた8冊の英文の本を机に並べました。「マルクスは、大会と毎週の評議会のほとんどに出て指導しています。労働者の運動に取り組みながら、『資本論』を執筆し、そのなかで労働者の階級的発展を論じたのです」
第三は、「資本独占は、それとともにまたそれのもとで開花したこの生産様式の桎梏(しっこく=手かせ足かせ)となる」と書いた部分です。
「私たちの経験のなかでも『桎梏』化はものすごい形で現れています」とのべて、日本共産党綱領を紹介しました。
続いて『資本論』の有名な一文、「生産手段の集中と労働の社会化とは、それらの資本主義的な外皮とは調和しえなくなる一点に到達する。この外皮は粉砕される。資本主義的私的所有の弔鐘(ちょうしょう)がなる。収奪者が収奪される」を読み上げたあと力を込めました。「資本主義的外皮を粉砕する人がいなければ粉砕されず、弔鐘は鳴らす人がいなければ鳴りません。資本主義の矛盾がいかに深刻でも自動的に崩壊しないのです」
資本主義から社会主義・共産主義へ移行する過渡期には、生産現場での「奴隷制のかせ」をなくし、未来社会にふさわしい自由な生産者の自由な意志の連合体をつくり、そこに“指揮者はいるが支配者はいない”自治的な生産現場をつくる長期の闘争が必要になります。旧ソ連社会は、未来社会本来の姿とはまったく違っていました。党綱領では、「生産者が主役」を明記して、その形態をつくりだすことに知恵をそそぐことを強調しています。
未来社会で労働はどう変わるか―に話をすすめた不破さんは、「自発的な手、いそいそとした精神、喜びに満ちた心で勤労にしたがう結合的労働」というマルクスの言葉を紹介、搾取から解放された人間らしい労働のあり方を示しました。
さらに、マルクスが「人間の全面発達」の時代へすすむ未来社会を描いていたことを紹介。これまで長く注目されてこなかった『資本論』第3部の第7篇第48章の未来社会論の文章を紹介、「自由の国」「必然の国」をキーワードに解説を加えました。そのなかで、人間の発達それ自体が目的となり、それが社会発展の原動力となる未来社会の大きな展望を語りました(『前衛』7、8月号参照)。
「『資本論』を労働者階級の成長と役割を中心にみてくると感じることがあります」と話した不破さん。結びをこう締めくくりました。
「社会変革も新しい社会づくりも労働者階級が主役です。生産現場で『奴隷制のかせ』をなくす、ものごとを変える力を私たちが持たなければ未来社会も築けないでしょう。日本は世界でもストライキのない国になっています。今の日本の労働者のなかでブラック企業などで労働組合を持たず苦しんでいる労働者が大多数ということを考え、既存の労組を強くすると同時に、全労働者を対象に行動し、労働の現場で『労働者階級の党』をつくり広げていく、日本の労働者階級の階級的発展のために活動する党組織の特別の役割もあります」