2014年9月2日(火)
主張
子どもの貧困対策
現場の願いに正面から応えよ
安倍晋三政権が子どもの貧困対策大綱をようやく閣議決定しました。当初予定よりも約1カ月ずれ込んだうえ、内容も従来の政策の列記が目立ち、子どもの6人に1人が貧困状態という日本の深刻な実態を抜本的に改善するには、あまりにも貧弱です。子どもが生まれ育った環境で将来が左右されないことをめざし制定された「子どもの貧困対策法」の原点に立ち返り、政府は事態打開へ向けて積極姿勢に転じるべきです。
切実な要望は入らず
大綱は昨年の国会で全会一致で成立した子どもの貧困対策法で、政府に策定を義務づけたものです。6月に内閣府の有識者会議が意見をまとめ、子どもの貧困率改善の数値目標設定や、返済不要の「給付型奨学金」導入、一人親家庭への児童扶養手当の対象年齢引き上げなどを入れることを政府に求めるなど、充実した大綱を求める声が広がっていました。
大綱策定が大詰めを迎えた7月末、親などが貧困状態の家庭で育つ18歳未満の割合(子どもの貧困率)が過去最悪の16・3%(2012年)であることが判明しました。従来の政策の延長線にとどまらない、実効性のある対策を実施することが急務であることを改めて政府に突きつけたものです。
ところが閣議決定された大綱は、深刻な現実を打開するのに見合った中身とは到底いえません。学校で貧困問題にあたるスクールソーシャルワーカーの増員など、ある程度の対策は具体化したものの、児童扶養手当の拡充や給付型奨学金の導入などは見送られ、関係者に失望を広げています。
貧困率改善の数値目標も決めませんでした。イギリスでは貧困率の改善目標を明記し取り組みを強め、効果をあげています。日本でも自殺対策基本法にもとづく自殺総合対策大綱は、「自殺死亡率20%以上減少」の改善目標を掲げ、その達成に向けた対策づくりを重ねています。政府の責任を明確にするうえで数値目標設定は不可欠です。5年ごとの見直しを待たず、大綱の改定も検討すべきです。
安倍政権の消費税連続増税と社会保障破壊は、子どもの貧困打開に完全に逆行しています。消費税増税は「アベノミクス」がもたらす物価高騰に苦しむ低所得世帯に追いうちをかけています。生活保護費削減は、受給世帯はもちろん就学援助を受けている子育て世帯に深刻な影響を広げています。労働法制大改悪は低賃金・不安定雇用を深刻化させ、若者や親たちをさらに苦境にたたせるものです。
社会全体の貧困を拡大させておいて子どもの貧困が解消できるはずがありません。国民に「自己責任」を迫る経済・社会保障政策を根本からあらためるべきです。
権利を保障する立場で
国連は、子どもの経験する貧困は、子どもの権利条約に明記されている「すべての権利の否定」と強く警告し、各国に克服を求めています。経済協力開発機構(OECD)加盟33カ国中でも最悪水準にある日本でこそ、子どもの貧困の解消は緊急の課題として位置づけられなければなりません。
子どもの貧困対策法は、親から子への「貧困の連鎖」を断ち切る第一歩となる法律です。国民世論と運動が生み出した法の精神を生かすために、実効性のある対策を実現させる取り組みが重要です。