2014年8月14日(木)
川内原発 規制委 ずさん審査
独自解析せず九電任せ
原子力規制委員会が実施中の九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の規制基準への適合性審査で、重大事故対策の有効性評価について、以前行われていたクロスチェック(異なる角度からの点検)解析が厳正に実施されていないことが13日までに分かりました。規制委が発表した資料(「技術報告」)で判明しました。規制委の審査がいかにずさんかを改めて示したもので、審査で適合とされたからといって、再稼働の条件とはなりえないことが浮き彫りになりました。
福島第1原発事故前の原発の設置(変更)許可に関する審査では、事故を想定した事業者の解析の妥当性を判断するため、旧原子力安全・保安院や旧原子力安全委員会が、事業者の提出した解析と同じ条件で、事業者の計算ソフト(コード)とは異なるコードを用いて独自の解析をしていました。
ところが規制委が作成した新たな規制基準によって、初めて炉心溶融を伴う重大事故(過酷事故)への対策が、事業者に義務付けられましたが、これまでのようなクロスチェックは実施されていません。
これに対し規制庁は「(これまで行われている)設計基準事故のチェックの仕方と、重大事故のチェックの仕方は、考え方が違っている」と認めました。
九電は川内原発の過酷事故に関する解析をMAAP(マープ)という米国製のコードで実施。それによると、最も過酷な場合の事故シナリオで、事故発生から約19分で炉心溶融が始まり、1・5時間で原子炉圧力容器が破損します。
九電は、事故発生の49分後から、格納容器内に水を張ることで、コンクリートと溶融燃料との反応で水素などが発生することを抑え、格納容器の破損を防げるとしています。しかし、過酷事故の解析コードには大きな不確かさがあると指摘されています。仮にこの1・5時間が半分になれば水張りは間に合わず、格納容器が破損する危険性があります。
元原子力安全委員会事務局技術参与で原発の審査にも関わった滝谷紘一さんは「リポート(技術報告)の内容は、申請者の解析の妥当性を審査したクロスチェック解析ではない」と指摘します。
滝谷さんは「事業者に、入力値を少し変えて『感度解析』を行わせるなどしていますが、それだけでは不十分です。コード自体にどれだけ不確かさがあるのかを見るには、少なくとも異なるコードで同じ条件で解析し、結果を付き合わせて検討する必要があります。それをしないままでは、ずさんな審査といえます」と強調します。
再稼働の条件なし鮮明
原発審査 独自解析は不可欠
規制基準への適合性審査で、事業者は全交流電源喪失や冷却水の喪失などを仮定し、その場合の原子炉の温度や圧力などの状態をコンピューターで解析しています。それをもとに消防ホースで注水するなどの対策で、大規模な放射性物質の放出を防止できるかを確認していきます。
しかし、溶けた核燃料の動きや、溶融燃料と水やコンクリートとの反応など過酷事故に関する解析には大きな不確かさを伴うことが分かっています。
例えば、東京電力福島第1原発事故では、東電がMAAP(マープ)という計算ソフト(コード)を使った事故解析を実施。それによると、1号機の圧力容器が破損する時間は、炉の停止から15時間になります。
旧保安院も異なるコードを使ってクロスチェック解析を実施し、その結果を発表しています。保安院の解析では、1号機については、圧力容器破損まで5時間と、東電解析の3分の1になっています。
また、3号機のこれまでのMAAPによる解析では、原子炉圧力容器が破損しないという結果が出ていました。東電が6日に発表した新たな解析では、炉心溶融時間が約5時間早まり、圧力容器も損傷する結果になりました。
また、3号機で溶融した燃料は、解析ではほぼ全量が格納容器に落下しているという結果です。しかし、東電は「MAAPは全量落下となりやすい傾向がある」として、一部は圧力容器内に残っているという見解を示しており、過酷事故解析の不確かさを示しています。
適合性審査においても、同様の不確かさが懸念されています。規制委員会が事業者の解析に依存し、個別の原発に対する独自の解析を行わない審査では、科学的・技術的に厳正な審査とはいえません。(松沼 環)