2014年8月4日(月)
野良猫も生を全う
“殺処分減らしたい” 大学で保護活動
手術で繁殖数減 ■ 一匹一匹に餌やり
保健所などに持ち込まれて殺処分された猫は2012年度で12万3千頭を超えます。「殺処分を減らしたい」と、大学構内にすみついた野良猫との共生をめざす活動が全国で広がりつつあります。インターネット上で活動を報告しているのは全国で13校。そのひとつ、横浜市保土ケ谷区にある横浜国立大学の「ネコサークル」を訪ねました。
(日恵野香)
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キャットフードと水、トレイを持った学生たちの前に、「ニャー」とキジトラ柄の猫が現れました。耳には不妊・去勢手術済みを示す切り込み。「ごはんの時間だよ、おいで」と呼ぶ学生にすり寄ります。
大学公認の「ネコサークル」は、近隣に暮らす野方みどりさん(68)とともに、構内の野良猫の不妊・去勢手術と餌やり、個体の識別などを行っています。17年前、野方さんが娘の入学を機に同大学で活動を始め、学生たちに声をかけ続けたのがきっかけで08年にサークルが発足。現メンバーは22人です。
「地域猫活動は、野良猫のゴミあさり、さかりの鳴き声をなくすなど環境美化につながる」と、副サークル長の女性(20)は話します。
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手術代、餌、毛布などは、毎月のサークル費と大学からの補助、募金や野方さんら有志の出資でまかないます。
活動を広く知ってもらおうと、卒業生の来校行事での講演や、学園祭で“総選挙”と称した猫の人気投票を行っています。
餌やりは毎日午後4時半と6時。土日、長期休暇も欠かしません。2回とも餌場に来なかった猫には、夜に野方さんが探して与えます。
悪臭や虫の発生原因となるため、置き餌はしません。水分不足を防ぐために乾燥フードと缶詰を与え、一匹一匹が食べ終わるのを待ちます。餌場は約45ヘクタールのキャンパス内に5カ所。一巡すると1時間かかることもあります。
男性(22)は「大変だけど、猫たちに会うと癒やされる。ほかの人たちからかわいがられているのを見ると、世話していてよかったなあと思います」と話します。
しかし「世話をしてくれるから」などと捨てに来る人がいるのも現状です。目に病気がある猫が持ち込まれていたことも。
女性(20)は「活動を通して命の大切さと人間の身勝手さを知りました。初めは近寄れなかった子が、なついて触らせてくれたり、鳴いてくれたりするとうれしい」とやりがいを語ります。
構内の猫は野方さんと学生の取り組みによって17年間で50匹から13匹に減りました。
「最終目標はキャンパスに猫がいなくなること。猫が嫌いな人も含めた共生を考えるとそうなる」と男性(22)はいいます。
不妊去勢手術を施すことに「子孫を残すのは猫の権利。奪うのは心苦しい」(女性)「生かすも殺すも人間の都合と怠慢」(男性)との葛藤もあります。「最善ではないと思うけれど、よりましな選択。せめて一代の生を全うさせたい」と、会長の女性(21)はじめ、メンバーは口をそろえます。
野方さんは「学生さんと一緒にやるようになって、取り組みの幅が広がった。活動を知った人から握手を求められ、やってきてよかったと思った。最後の1匹までみとりたい」と語ります。
環境省自然環境局の担当者は「殺処分の8割は生後3カ月以下の幼い猫。手がかかるため、引き取り手を探すのも保健所で長期間保護するのも難しい」と話します。飼い猫が外で交配して出産することもあるとし、「命に責任がとれないなら、外に出す猫は手術を。地域猫活動は殺処分の減少に効果があります」と述べています。
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