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2014年8月4日(月)

主張

精神科病棟の転換

看板かけ替えは願いに逆らう

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 厚生労働省が精神科病院の病棟・病床の一部を「居住系施設」に転換する方針をまとめ具体化をすすめていることに、障害者や医療関係者などから強い反対の声が上がっています。長期入院患者の解消を口実にしたものですが、厚労省の方針は、病院敷地の建物を「居住施設」と言い換える看板のかけ替えにすぎません。精神障害者を病院施設内に押し込める政策をあらため、地域で安心して生活できる環境こそ整えるべきです。

地域で普通に暮らしたい

 日本の精神科病床には約32万人が入院しています。病床数では経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国平均の4倍とずば抜けています。入院期間も長期化しており1年以上は約20万人、10年以上は約7万人にのぼります。入院が長期化するほど生活する力が衰えて、地域生活への移行が困難になる場合も少なくありません。

 厚労省は、長期入院の解消と患者の地域移行をめざす検討会を設置して議論を続けてきましたが、7月初めに検討会がまとめた結論は、障害者らの願いに反する重大な方針が盛り込まれました。精神科病床の「適正化」で不必要になる病院の建物設備を「活用する」として、従来の病棟・病床をグループホームなど「居住系施設」に転換することを認めたのです。

 病院敷地内で「居住」することは、従来の入院生活と実質は変わらず、地域で暮らすことと異なります。厚労省は「自由に出入りできる」などといいますが、精神科病院の立地自体が市街地から遠く離れている場合が多い実態などを無視した議論です。「一時的」という厚労省の説明についても、日本の精神科病床の歴史的経過をみれば「一度整備されれば恒久化されてしまう危険は否定できない」(日本弁護士連合会意見書)と警告の声が上がっています。

 患者自身がこのような転換を望んでいません。厚労省の入院患者の聞き取りでは、退院を希望する人は多いのに、「住まいが病院の敷地内なら」との問いには「退院したくない」という答えが多数でした。退院した患者への調査でも病院施設内だったら「退院しなかった」という回答が圧倒的でした。

 地域のグループホームなどを計画的に増やし、賃貸・公営住宅の入居を促進すべきです。訪問診療や相談支援、就労など地域で支える体制の整備に本格的に取り組むことこそ、「地域で普通に暮らしたい」という精神障害者の痛切な願いにこたえることができます。

 日本政府が今年、批准し発効した障害者権利条約は、障害者が他の市民と平等の機会をもって居住地を選択できる措置を締約国の義務にしています。「特定の生活施設で生活する義務を負わない」ことも明記しています。厚労省の方針は、権利条約に完全に逆行しています。条約を批准した最初の年に権利条約に反する方針を推し進めることは、世界に顔向けできない重大な汚点になりかねません。

「実施やめよ」の声広げ

 厚労省は来年度実施に向け、モデル事業などを開始する構えです。これにたいして3000人を超える参加者で病床転換反対大集会を6月末に開いた障害者団体などは、実施を許さない世論と運動を強め広げることにしています。障害者の人権を保障する国民の共同したたたかいが急がれます。


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