2014年7月28日(月)
アニメ現場つらすぎるよ
2カ月働き賃金たった20万円 休みは1カ月で3日 何十時間も不眠で仕事…
子どもからおとなまで、世代を超えて愛される日本アニメ。海外でも人気を集める一方、制作現場からは悲鳴が上がっています。 (丹田智之)
「2カ月かけて私がもらえる賃金は20万円。月収に換算すると10万円です。休みはここ1カ月で3日しかありません」
人気アニメを数多く手掛ける演出家の稲村亜衣さん(仮名・38歳)は、監督のもとで各シーンの演出をアニメーターなどに指示するのが仕事です。隙間なく埋まったスケジュール表を片手に、アニメ制作現場の労働環境について「悲惨な世界だ」と訴えます。
稲村さんの同僚スタッフは先日、全く寝ずに何十時間も仕事を続け、帰宅途中に“居眠り運転”で対向車線の車と正面衝突する事故を起こしました。しかし、現場の作業を止めるわけにはいかないといいます。「残りの人でカバーするしかありませんが、そのうち別の人も倒れる。そんな悪い連鎖が起きないか心配です」
カット袋に入った10枚ほどの原画を見せながら「これを全て書いて2千円です。動画は1枚で150円から200円。日給で2千円程度にしかなりません」とため息をつきました。
「ちびまる子ちゃん」などを手掛け、13年間アニメ制作現場で働いてきた大くま真一さん(本欄「アニメ原作を読む」を担当・38歳)も「アニメ業界で働いていると、毎日が“学園祭前夜”のような気分になる半面、仕事に余裕はなく、どの現場も自転車操業だった」と振り返ります。
日本アニメーター・演出協会の調査(728人が回答)によると、演出家の1日当たりの平均作業時間は11時間7分で、アニメ業界の全職種を合わせた平均も10時間30分にのぼります。一方で、20代の平均年収(総収入)は、約110万円。全体の32・3%が年収100万円台で、19・9%が100万円未満と低収入層に集中しています。
同協会の副代表理事でアニメ監督のヤマサキオサムさん(52)は、多くの新人が長時間・低賃金の労働を強いられている現状について「個人の力で変えられる問題ではない」と語ります。その上で「(人材育成のための)適切な指導体制と最低賃金が確保されなければ、技能を覚える前に辞めてしまう。フリーランスの契約形態も人材育成の障壁になっている」と頭を抱えます。
過労が原因で自ら命を絶った痛ましい事件もありました。
「1日の平均睡眠時間0〜4時間」「月600時間以上会社につめている」―。当時28歳の男性は2010年10月、インターネット上の日記にこう書き残して自殺しました。男性は2009年12月まで、東京都のアニメ制作会社「A―1 Pictures」で人気アニメ「おおきく振りかぶって」「かんなぎ」の制作進行(=作画スタッフに仕事を依頼する現場の調整役)を担当していました。自殺は、過労によるうつ病が原因でした。
労災認定で遺族側の代理人を務めた和泉貴士弁護士(39)は「アニメやIT業界など賃金が歩合で支払われる仕事は、成果が出るまでいくらでも働けということになり、無制限な長時間労働につながっている」と指摘します。
大くまさんは「単価の設定は、1日8時間働いた成果で、普通の人が生活できる額を最低ラインにすべきだ。多くの人が、このままではまずいと思っている」と訴えます。
共産党が国会で改善要求
日本共産党の田村智子参院議員は4月24日の参院文教科学委員会で、アニメ制作現場の実態を告発。DVDやネット配信など二次利用による収益を制作者に還元する仕組みをつくることを提案し、適正な労働時間と賃金を保障するよう政府に求めました。
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TVアニメ年200本超 現場の多忙化に拍車
「鉄腕アトム」の放送開始から50年を迎えた現在、TVアニメの制作本数は年間200本を上回っています。ここ数年も増加傾向にあり、制作現場の多忙化に拍車を掛けています。