2014年7月21日(月)
医療・介護施設に投資解禁
営利追求でサービス危うく
国土交通省は、サービス付き高齢者住宅など高齢者施設・住宅の整備をすすめるためとして、「不動産の証券化」による投資対象とする際のガイドライン(ヘルスケアリート活用指針)を定めました(6月27日)。これによって施設の整備が進むのか、安心できるサービスになるのでしょうか。
(深山直人)
「不動産の証券化」とは、投資家から集めた資金や銀行融資をもとにオフィスビルやマンションなどを購入、賃貸収入などを投資家に配分する「不動産投資信託」(リート)のことです。東京証券取引所で「Jリート」の名で売買されており、46銘柄、時価総額は8兆5000億円にのぼります。元本や配当の保証はなく、激しい値動きを繰り返しており、リーマン・ショック時には破たんしたケースもあります。
こうした手法を高齢者向け住宅・介護施設などに特化したものが「ヘルスケアリート」です。これまで高齢者施設に特化したものはなく、長期にわたって安定した運営が求められるため認可もされてきませんでした。
安倍内閣が昨年発表した「日本再興戦略」(成長戦略)で、「公的保険に依存しない健康寿命延伸産業を育成する」として医療・介護サービス分野への営利企業の参入を進めることを打ち出し、指針策定となったものです。
突然施設廃止も
指針では投資対象をサービス付き高齢者住宅、有料老人ホーム、認知症高齢者グループホームの三つに設定。施設の特性を理解する担当者の配置や投資家への情報開示などを打ち出しました。
3施設は計約2万5000施設、約67万人が入所しています。しかし、入居者に対し指針は、制度の仕組みを周知することや法令順守など当然のことが盛り込まれているだけです。
「リートの最大の特徴は営利を追求し、投資家に配当を行うことです。そのため、収益が上がるような料金設定や人員配置などが行われることになる。逆に想定する配当を下回れば、賃料値上げなど利用者の負担増やサービス削減を招く危険性があります」。こう指摘するのは、全国保険医団体連合会・政策部事務局の寺尾正之さん。
「高配当を求めて運営を別の事業者に変えたり、収益が見込めないと売却してしまうことも考えられます。売却先の方針次第で施設の廃止も否定できません。安心して介護を受けたり、ついの棲家(すみか)になると思っていたのに突然、追い出されることになりかねません」と話します。
自治体病院も…
政府は、医療法で「非営利」原則を定める病院についても対象とするため、年内に指針を策定します。民間病院はもちろん、耐震化や設備更新を控える自治体病院なども対象になるとみられています。
これに併せて厚労省は、「非営利ホールディングカンパニー(持ち株会社)型法人」制度をつくり、病院や介護施設などを一体的に運営できる仕組みを検討しています。医療法人による株式会社への出資も可能にするなど、ヘルスケアリートと併せて医療・介護サービスを営利追求の対象にしていく姿勢です。
すでに新生銀行や投資法人など6社は国内最大1000億円規模のリート設立を発表。配当はオフィス(4%)やマンション(5%)を上回る7%台を掲げて投資を募るなど動きが広がっています。
寺尾さんはいいます。「医療などは、安全や安心を守るため非営利が原則とされてきました。それを投資の対象にすれば、営利追求によって脅かされることになります。国には社会保障を守る責任があり、営利化の持ち込みはやめるべきです」
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