2014年7月12日(土)
きょうの潮流
道楽が過ぎて勘当された「若旦那の徳さん」。いなせな姿に憧れて船頭になったはいいが、ろくに舟を操れない。最後は乗せたお客を桟橋まで運べず、「お上がりになりましたら、船頭を一人雇ってください」と頼み込む始末▼8代目桂文楽が十八番にした古典落語の「船徳(ふなとく)」です。噺(はなし)の中に文楽の有名なセリフがあります。「四万六千日(しまんろくせんにち)、お暑い盛りでございます」。この日にお参りすると、4万6千日分の御利益があるといわれる縁日のことです▼毎年この縁日にあたる7月9、10日には東京・浅草寺(せんそうじ)の境内に「ほおずき市」がたちます。朱色も鮮やかなホオズキ、涼やかな風鈴の音色、売り子の威勢のいい掛け声。ことしも50万をこす人びとでにぎわいました▼下町に夏本番を告げる風物詩といえば、ほおずき市の前に開催された「入谷(いりや)の朝顔市」もそうです。家族連れや、浴衣を着て手をつなぐ若いカップル、物珍しそうな外国人の姿も。足をとめて鉢植えを選んだり、周りの屋台を楽しんだり、それぞれが、市を楽しんでいました▼水が打たれた軒先に並ぶ色とりどりのアサガオ。4色が一緒に入った鉢や、江戸時代の人気役者、二代目市川団十郎の海老茶色の装束にちなんで名付けられたアサガオ「団十郎」も。選び方や手入れの仕方など、売り手との会話もはずみます▼大がかりなイベントではなく、江戸の昔から庶民が愛してきた情緒豊かな行事。簡素な中にも、自然を愛(め)でる風流さ、人と人とのつながりが心地よくひびいてきます。