2014年6月13日(金)
安倍内閣の野望「残業代ゼロ」 (1)
過労死促進、「成果」で賃下げ
安倍晋三政権は、労働時間ではなく成果で賃金を決める「新たな労働時間制度」の創設に動きだしました。残業や深夜勤務をしたら割増賃金を払う労働時間ルールの適用除外制度をつくり、労働者を成果で競争させ、際限なく働かせる仕組みをつくるものです。絶対に実現させるわけにはいきません。
世論の批判
安倍政権は、第1次政権の2007年にも「ホワイトカラー・エグゼンプション」という事務系労働者にたいする労働時間適用除外制度の導入を企て、労働基準法改定案を国会に出そうとしました。しかし、「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」という世論のきびしい批判をあびて、断念しています。
それを再び持ち出したのが、今回の「新しい労働時間制度」です。4月22日の政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で産業競争力会議の長谷川閑史雇用・人材分科会主査(武田薬品社長)が制度創設の基本的な考え方を提案しました。「労働時間ベースではなく、成果ベースの労働管理を基本(労働時間と報酬のリンクを外す)」とする労働時間制度を創設するという内容です。これをうけて安倍首相が「時間ではなく成果で評価される働き方にふさわしい、新たな労働時間制度の仕組みを検討していただきたい」と指示しました。
態度を変更
5月28日の産業競争力会議では、長谷川氏が対象労働者をプロジェクト責任者や上級管理職候補などとする具体案を示しました。重大なのは、この会議でこれまで抵抗姿勢をみせていた厚生労働省が態度を変更したことです。田村憲久厚労相は4月22日の会議では「割増賃金も含めた現行ルールの適用を幅広く外すことに、国民の不安がある」と否定的な見解をのべていました。それが一転、「世界レベルの高度専門職」を対象に労働時間の適用を外す制度を構築する考えをうちだしました。こうして働いた時間に関係なく成果で労働者の仕事を評価するという「新たな労働時間制度」が6月にまとめる新「成長戦略」の目玉として盛り込まれることになりました。
11日に開かれた関係閣僚会議では、対象の労働者を「年収1000万円以上」とし、仕事の範囲が明確で高い職業能力を持つ労働者としました。しかし、対象は拡大可能であり、経団連の榊原定征会長は「少なくとも全労働者の10%程度は適用を受けられるようにすべきだ」(9日)と要求。産業競争力会議の竹中平蔵慶応大学教授は、“小さく生んで大きく育てる”というねらいを語っています。
政府は、実際の労働時間に関係なく、労使で決めた時間を労働時間とすることで「残業代ゼロ」にする「裁量労働制」の拡大でも一致しています。
危険な動き
はっきりしているのは、人間らしく働く最低の基準である労働基準法の労働時間規制の対象外にされることです。「1日8時間」「週40時間」を超えて働かせてはならないという歯止めがなくなり、残業代も深夜・休日の割増賃金も出ない、労働時間規制条項がいっさい適用されず青天井状態で働くことになります。表現は違っても、中身はまさしく「残業代ゼロ」「過労死促進」制度そのものです。
そればかりか、家庭を犠牲にしてどんなに長時間働こうが、賃金は「成果」しだい。会社によるあいまいな成績評価で賃金が上がらないだけでなく、下がることさえあります。これは大企業職場を中心に導入されている成果主義賃金制度で現実におこっていることです。
「残業代ゼロ」「過労死促進」という大問題に加えて、「成果で賃下げ」という深刻な害悪を労働者におしつける危険な動きです。 (つづく 4回連載)
(ジャーナリスト 昆弘見)