2014年5月31日(土)
きょうの潮流
「たったひとりしかない自分を、たった一度しかない一生を、ほんとうに生かさなかったら、人間、生まれてきたかいがないじゃないか」。逆境を生き抜く吾一少年の成長を描いた小説『路傍の石』の一節です▼著者は山本有三。真面目で勤勉な人間像を理想とした作家は、国語改革にも情熱を注いだことで知られています。没後40年を期し、東京都三鷹市の山本有三記念館では「山本有三と国語」展を開催しています▼戦前から「ふりがな廃止論」を唱え、ふりがながなくても誰にでも読める文章を書くこと、美辞麗句や難解な漢字を使わず、やさしい言葉で表現することを自らも実践しました▼敗戦直後、発表された新憲法草案がカタカナ文語体だったことに反対し、ひらがな口語体試案を政府に提出。「これからは少数の者だけが国を支配すべきものではない」「もじやことばを、是非とも民衆のものとしなければならない」「それではじめて、政治に対しても、社会に対しても、文化に対しても、国民はもれなく目を開かれることになるのである」と訴えました(「もじと国民」)▼憲法を国民の血肉とするため口語化に尽力した有三は、戦争放棄をうたった9条についても「裸より強いものはない」と記しています。「いのちを投げ出すことを、最高の道徳と考えたり、それをほめたたえる思想は、封建主義的な思想です。やくざ仁義の思想です。軍国主義的な思想です」(『竹』)▼有三の言葉に今、平和憲法の初心が鮮烈に立ち上ります。