2014年5月24日(土)
主張
受診遅れ死
「命守る」国保の再生こそ急げ
胸が痛く苦しくてたまらないが病院に行くお金がない―。我慢に我慢を重ねた結果、医療機関にかかったときはすでに重症化して命を失う悲劇が後を絶ちません。全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)の調査では、昨年1年間に全国で少なくとも56人が経済的な理由で治療が遅れて死に至ったことが明らかになりました。「カネの切れ目が命の切れ目」という異常事態を、いつまでも繰り返すことは許されません。
高すぎる保険料払えず
長年勤めた会社の閉鎖で失職しパートを転々としていた50歳代男性は不調だったのに受診せず、ようやく医療機関にかかったときはがんが手遅れでした。高い国保料の未払いによって無保険だったのです。自宅で体調を崩しているところを知人が見つけ救急車で運ばれ、入院後に間もなく亡くなった60代男性も無保険でした。
民医連の調査では、亡くなった人の約8割が国保料を払えないなどの無保険の人たちでした。無収入や収入が不安定な雇用の人たちは7割を超えています。窓口負担の重さから受診を控える人もいました。生活保護申請を受理されなかった事例もありました。失業や高齢化による生活困窮が「助けられた命」を奪っている事実を突きつけています。
民医連は毎年調査を行っていますが、ここ数年は年間約60人もの人が経済的理由による「受診遅れ」で命を落としていることが判明しています。民医連加盟の医療機関が掌握している事例に限られているため、これは「氷山の一角」といわれています。さらに多くの人が健康を害し、亡くなっている実態にあるのは明らかです。
日本の医療制度は、すべての国民が公的保険に加入し、保険証1枚あれば、いつでもどこでも必要な医療が受けられる「国民皆保険」です。「皆保険」を支えているのが市町村が運営する国民健康保険です。ところが、いま国保料が高すぎて払えずに国保から締め出される人たちが相次ぐ、「皆保険の空洞化」が加速しているのです。
国保料が払えないのは372万2千世帯と全加入世帯の2割近い水準です。保険証を取り上げられ、代わりに全額を窓口で支払わなければならない「資格証明書」を発行されているのは27万7千世帯にも達しています。国保料を払えない世帯が、いざというときに医療費の全額を負担できるはずがありません。容赦ない保険証の取り上げは即刻中止すべきです。
厚生労働省の調査でも、国保加入者の所得水準は健保組合加入者の4割程度なのに、保険料の平均負担は健保加入者の約2倍にもなっています。所得の低い人たちが高い保険料を負担する国保の構造的な矛盾です。大企業の雇用破壊などで急増した失業者や非正規雇用労働者が国保加入者の多くを占めるようになったことが、「国保の危機」に拍車をかけています。
安心確保のしくみを
市町村の国保財政を悪化させた大本である国庫負担削減をただちにやめて増額に転じるべきです。公的医療費削減などを狙った「国保広域化・都道府県単位化」は住民になんの利益にもなりません。
高すぎる保険料引き下げや医療費窓口負担の軽減拡充・無料化こそ急がれます。「国民の命を守る」政治の責任が問われています。