2014年5月23日(金)
「たちかぜ」判決1カ月
秘密法の「原型」は 自衛隊隠ぺい体質
海上自衛隊の護衛艦「たちかぜ」乗組員のいじめ自殺裁判で、自衛隊の証拠隠し・隠匿を断罪した東京高裁控訴審の逆転勝利判決(4月23日)から1カ月。今、改めて問われているのが、自衛隊が証拠・文書隠しの隠れみのにした「防衛秘密」の実態です。関係者は「秘密保護法があったらと考えるだけで恐ろしい」と異口同音に語りました。 (山本眞直)
この裁判で、遺族側が息子の自殺をめぐる自衛隊の調査、証拠資料の開示を求め、裁判所に提出した文書提出命令申立書(2006年5月29日)に国側が反論した意見書(同年9月15日)に次の一節があります。
「行政機関の長の判断が最大限に尊重されるべき」
「行政機関の長」こそが、秘密保護法案審議で国民の多くが初めて耳にした法律・行政用語です。軍事や外交にかかわる情報を「秘密指定」し、情報を漏えいしたり情報に接触したりすれば重罪にするという秘密保護法の「要を握る」のが「行政機関の長」です。
なんでも秘匿
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遺族が裁判をおこした06年4月は、まだ秘密保護法案は姿かたちがつくられていませんでした。しかし、すでに自衛隊の中では「国の安全に関する情報」の取り扱いという形で「原型」がつくられていたのです。
文書提出命令申立書で遺族が求めたのは、自衛隊が自殺直後にたちかぜ乗員全員に実施しながら「破棄した」と存在を否定し続けた「艦内生活実態アンケート」などの資料、隊員からの聞き取り調査(供述調書)、「たちかぜ艦内の一般事故調査結果について」「勤務記録抄」などでした。
国側が意見書で主張したのは、原告が提出を申し立てた文書の一部が情報公開法5条3号の「国の安全等に関する情報」にあたり、「国の安全が害されるおそれ」があれば提出義務を「留保できる」という認識でした。その内容は―。
―たちかぜの行動・訓練の状況について具体的に言及した部分がある
―(調査結果の)非開示部分には、艦艇とその分隊の所属人員等、自衛隊の具体的編成に関する事項が記載されている
―(公表は)わが国の防衛活動の具体的内容を他国等に知られることに等しい
そのうえで「じ後(原文のまま)の防衛活動に支障を生じさせることによって、直接侵略及び間接侵略に対し国を防衛する任務に困難を来す結果を招くことは自明の理であって、当該艦艇のじ後の任務の効果的な遂行に支障を生じさせる」としたのです。
これは、いわば「行政機関の長の判断で秘密指定すれば国会や裁判所からも秘匿できる」という秘密保護法と寸分違わない論理です。
防衛秘密どこ
しかし、一審の横浜地裁、控訴審の東京高裁はいずれも自衛隊の文書提出・開示拒否を認めませんでした。一審で国側指定代理人だった海自3佐の告発もあり、最終的には全ての文書の提出・開示を実現させました。
岡田尚原告弁護団長は言います。
「開示されたものをみると、『このどこが防衛秘密?』と言いたくなる。しかし、これは開示されたからこそ明らかになったもので、秘密保護法が施行されれば、秘密指定期間の間は明らかにされず検証のしようがなくなる。法廷でも開示されない。秘密保護法は廃止しかない」