2014年5月8日(木)
タイ首相、即時失職 憲法裁判決
「司法クーデター」の声も
タイの憲法裁判所は7日、インラック政権による国家安全保障会議(NSC)事務局長の人事が憲法違反だとしてインラック首相を即時失職させる判決を出しました。人事に関わった閣僚9人も同時に失職。政府支持者らは「司法によるクーデター」と強く批判しています。 (ハノイ支局)
タイのポンテープ副首相は、首相代行にニワットタムロン副首相兼商業相が就任すると発表しました。
違憲とされたのは、2011年にタウィンNSC事務局長を首相顧問に異動させた人事。後任のNSC事務局長には国家警察長官が任命され、さらに国家警察長官にはインラック氏の親族が任命されました。
この人事については最高行政裁判所が今年3月、違法だとする判決を出しており、タウィン氏はすでに元職に復帰しています。
憲法裁判決は、一連の人事が「親族の利益のために人事に介入した」と指摘し、私的利益による公務員人事への介入を禁じた憲法に反すると判断。一方で、昨年12月の議会解散から「選挙管理内閣」となっている現政権は職務を継続すべきだとして、「政府不在」となる事態は避けました。首相を選出する下院の総選挙は、7月20日に予定されています。
昨年11月から政権退陣を求める外交行動を続けているステープ元首相らの反政府勢力は7日、インラック氏失職を受け、上院の任命による暫定政権を発足させるよう改めて要求しました。
一方、政府支持団体「反独裁民主統一戦線(UDD)」は「司法によるクーデターを認めない」として、首都バンコクで大規模集会を開く構え。次期政権については「総選挙で民意を問うべきこと」だと主張しています。
解説
タイ憲法裁 反タクシン派の牙城
首相の失職は3人目
2006年のクーデターでタクシン首相が失脚して以来、タイでは東北部農民や低所得者を支持基盤とするタクシン派と、都市中間層が支持する反タクシン派との間で、政治対立が続いています。
反タクシン派はタクシン元首相らを“反王室、金権腐敗”と非難し、タクシン元首相の実妹であるインラック首相の退陣を要求。一方のタクシン派は、庶民の政治的台頭を受け入れられない特権層が反タクシン派の実体だと反発してきました。
クーデター後、2回の総選挙でタクシン派が連勝して政権を発足させたにもかかわらず、憲法裁の判決で失職した首相はインラック氏で3人目となります。クーデター後に制定された現憲法には、“タクシン派”政権をいつでも退陣させることができる仕組みがあるからです。
首相免職や政党の強制解散に関わる権限を持つ憲法裁や国家汚職追放委員会のメンバーは、上院の助言により国王が任命。一方、上院議員の約半数は憲法裁長官らからなる任命委員会が選びます。互いに選び合う構造で、いずれも反タクシン派の牙城です。
憲法裁だけでなく、国家汚職追放委員会もコメ買い上げ制度をめぐる「職権乱用」でインラック首相を弾劾する準備を進めています。 (面川誠)