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2014年5月6日(火)

2014 とくほう・特報

福島・浜通り「避難解除」地域(田村市都路)を歩く

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 安倍政権は4月1日、東京電力福島第1原発事故で被災した11市町村にまたがる浜通り地域の避難指示解除準備区域(原発から半径20キロ圏内)で初めて避難指示を解除しました。原発立地の双葉郡に隣接する田村市都路(みやこじ)地域東部です。避難解除から1カ月、現地を歩き、見えてきたものは―。 (阿部活士)


戻ったが 生計を立てていた山は 未除染

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(写真)少しでも線量を下げようと、泣く泣く裏山の伐採を業者に頼んだ坪井哲蔵さん=福島県田村市都路

 双葉郡に近い都路古道地区。「道路除染しております 6月27日まで」との看板が目を引きます。発注者は、田村市です。「除染作業中」の看板をたてて、歩道を掃いているグループもいます。放射能に汚染された枝木や葉っぱをかき集める作業です。重機を使って黒い巨大なゴミ袋に入れる作業グループもいました。

 〈避難解除しているのに、いま道路の除染なの?!〉と思います。

 国は、避難住民が故郷に戻るための前提として、除染事業を始めました。20キロ圏内は国直轄事業、それ以外は市町村事業に振り分けました。除染する範囲は、学校などの公共施設と宅地、そこから20メートルの範囲としました。道路除染はいま急ピッチですすめています。

先祖代々

 都路合子(ごうし)地区。「18軒のうち5軒が戻ってきた」。こう話すのは、市内中心地で自営業を営む坪井正弥さん(70)。ともに仮設暮らしをしていた妻(69)が昨年末に急死し、独りで戻ってきました。子どもの教育費のためだと東電の仕事をしたこともありました。「子どもたちや孫が帰れない土地にしてしまった。まさか事故が起きるとは」と悔しそうに話す正弥さん。山菜、キノコ、原木シイタケ…。先祖代々、山を活用して生きてきました。「宅地から20メートルの除染じゃ役立たない。これでは生計は立てられない」

 都路は、原木シイタケの一大産地で、シイタケの原木(ほだ木)を全国に供給する拠点でした。原発事故で山林が汚染され、シイタケも原木も3年たったいまも出荷制限が続いています。

 都路でも有名な原木シイタケ農家の坪井哲蔵さん(65)は、自宅裏の山林伐採を業者に頼みました。「裏山の高い放射線量をいくらかでも下げよう」という思いです。4人の子どもが成人するまでの40年間、シイタケの原木を毎年1万2000本売って支えてきました。

 「山林を除染していないから、ほだ木を育成しても放射能にやられて出荷できないという悪循環が繰り返される」との考えが浮かびます。「無職になった。見通しがたたない。将来を考えると頭がクラクラする」

家の背後

 専業農家の坪井久夫さん(63)は、「15日前後に田植えをしたい」と、準備に追われていました。「ここに戻ったのは、農業が好きだから。直接コメと野菜を送り続けた首都圏の消費者の激励もある。放射線の積算線量計を持って作業しているから安心だ」。久夫さんが心配するのは家の背後に迫る「除染されていない山林」だといいます。

戻れない 線量は本当? 国・東電に不信感

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(写真)仮設住宅の玄関先を仲良く掃除する根内さん夫妻=田村市船引

 政府は、除染でも賠償でも、原発から「半径20キロ、30キロ」との同心円という、機械的な上から目線で線引きした対策を基本にしてきました。

 2005年の「平成の合併」のとき、旧都路村など5町村の合併でできた新市・田村市も、除染・賠償も、その同心円の枠組みが上から押し付けられました。共同体だった集落と住民がバラバラにされました。それは、福島県民の縮図でもあります。

 地域を回ると、何人もの住民から、「同じ避難地域でも線量は違う。なのに、20キロ圏内以外は打ち切られている。線量が高いところがあって“再除染して”といっても、国は取り合わない」との声を聞きます。

 国がいくら掛け声をかけても、戻れない人、戻らない人がたくさんいました。

災害弱者

 山あいの都路から車で約40分、市の中心地にある「福祉の森公園」に併設された仮設住宅。20キロ圏内の避難者・37世帯が暮らします。玄関に黄色い小旗がはためく仮設もあります。“いまも暮らす”との目印です。旗を数えたら19本立っていました(4月30日)。

 玄関先を掃除していた根内(こんない)春男さん(69)とトキ子さん(70)夫婦も小旗を掲げていました。事故前は、3人の孫ら3世代がにぎやかに暮らす大家族でした。

 「水がないから帰れないの。3年たって土台が腐って畳もゆがんでいる」と早口で説明し始めました。

 飲み水にしていた井戸水をポンプアップする機器がさびて使い物にならないと訴えます。

 2人とも携帯電話を持たず、自動車もなく運転もできません。典型的な“災害弱者”です。頼みは、隣町・三春町の借り上げ住宅に避難した息子夫婦。一番上の子が小学校に入るので、「もう帰らない」と言われています。「仮設にいられるまで居たい…」

ごまかし

 平日夕方、ベンチでお年寄りの女性たちがおしゃべりしていました。その横でたばこをフィルターいっぱいまで吸いきる、白ワイシャツにジャンパー姿の男性がいました。

 「今日は病院に行った。血圧が上がり、夜眠れないときもある。ここにいて体調が悪くならない人はいない」。匿名なら話すという、この男性(63)は、「都路には戻らないよ。政府や東電のいうことはウソだと思うから。線量だってごまかしている」。3年間の国や東電のやり方への不信が消えません。

 「核種はセシウムだけでないでしょ。何がどれぐらいと、国はすべての情報を公開すべきだ。帰るか帰らないかは、われわれ個人の自由でしょう」

被災地再編 幕引き図る政府

 原発の再稼働に前のめりになる安倍政権は、昨年末に福島復興指針を閣議決定し、「帰還困難区域」「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」に再編し、“フクシマ”の幕引きを図ろうとしています。同時期に発表した原子力損害賠償審査会の中間指針第4次追補で、「帰還困難区域」の住民のみに1人700万円を「故郷喪失慰謝料」として一括賠償するとしました。一方、「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」で避難解除されたら原則1年間で、支援を打ち切る方針です。

 日本共産党福島県議団(神山悦子団長)は、「避難指示の有無に被害を矮小(わいしょう)化せず、国と東電は被害の実態に見合った賠償に責任をもつべきです。すべての被災者が生活と生業(なりわい)を再建できるまで等しく支援すべきです」と主張しています。

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