2014年4月10日(木)
4・8大集会
大江健三郎さんのスピーチ (要旨)
時代の精神・憲法守るため漱石の「示威運動」を今こそ
8日、東京・日比谷野外音楽堂で開かれた「解釈で憲法9条を壊すな! 大集会」で、ノーベル賞作家の大江健三郎さんがおこなったスピーチ(要旨)を紹介します。
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ちょうど100年前に小説家の夏目漱石は『こころ』を書きました。英文学者の漱石は、デモンストレーションという言葉を翻訳して「示威運動」という訳語を作りました。この言葉は、少しも流行しませんでした。日本で「示威運動」という言葉が流行しなかったのは、ずっとデモンストレーションというものがない社会体制だったからです。しかし、漱石は、「示威運動」が重要だといいました。
漱石が死んで30年たって、あの大きい戦争が始まり、広島、長崎を経験して戦争に敗れました。
そして67年前、私は12歳でしたが、日本人は新しい方針をつくった。新しい憲法をつくりました。そして憲法を自分たちの新しい精神として、新しい時代の精神として生き始めたわけです。
私はもう79歳です。私の人生はこの新憲法という時代の精神のなかでおこなわれたんです。戦争をしない、民主主義を守るという根本の精神がすなわち私の生きた時代の精神なんです。それを私は死ぬまで守り抜きたいと思っています。
夏目漱石が「非常に危ない時代」だといったのは、明治の終わりにもう彼はそういう危機を感じ取っていたからです。いまのまま日本がすすんでいくと、大きいゆきづまりに出あうに違いないと彼はいった。そして30年たってあの戦争が起こりました。
ところが、いまの政府は、いろんな犠牲によってできあがり、私たちが67年間守り抜いてきた時代の精神をぶっ壊してしまおうとしています。それも民主主義的な方法じゃない。内閣が決めれば、日本が集団的自衛権を行使して、アジアでおこなわれる、あるいは世界に広がっていくかもしれない戦争に直接参加する。保守的な政府すらも守り抜いてきたものを民主主義的でない方法で国民投票もなしに一挙にぶち壊して新しい体制に入ろうとしているわけです。
いま、日本人の時代の精神がもっとも危ないところに来ていると思います。戦争しない、民主主義を守るという、67年間続けた時代の精神を守るために私たちにとりうる方法は、漱石のいう「示威運動」すなわちデモンストレーションです。
私たちが未来の子どもたちに守りうる時代の精神、次の世代のためのもっとも大切な、もっとも難しい仕事がこの集会、デモから始まるんだということを改めて強く自覚したい。しっかり歩きましょう。