2014年3月25日(火)
フェアプレーの風
――「差別許さぬ」 監督・選手の思い
違いがある。だから美しい
埼玉スタジアムから熱狂が消えた23日、観客のいない中でたたかうむなしさを実感した監督、選手たちは、「差別をなくそう」という、さまざまな“色”のメッセージを発してくれました。
体験
一部の浦和サポーターが差別的な横断幕を掲げたことで、リーグが科した無観客試合。対戦した清水のアフシン・ゴトビ監督は「スタジアムにだれもいないと魂が欠けているように感じる」と切り出しました。
同監督は3年前、Jリーグである事件を経験しています。イラン出身で米国籍の同監督は、相手サポーターから「ゴトビへ、核兵器作るのやめろ」という、横断幕を掲げられたのです。当時、イランの核開発が問題になっていたことを使っての中傷でした。
それだけに今回のことも、「ごく一部の人間の問題だが、差別撲滅の重要性を全国に啓発するいい機会でもある」と話します。
「人と人とは違いがある。だから世界は美しい場所になるのだと思います。何より、私たちエスパルスには9カ国の人々がいるのです」。差別のない世界が、そこにはあります。
来日して3年あまり。東日本大震災も経験しました。その中で感じたことがありました。
「そのとき、日本は世界と強く団結していました。それが真の日本だと思います。私も含め、外国人の多くが日本人を愛しています。日本人の優しさや礼儀正しさ。それが日本の“顔”だとも思う。もし、この国でそれを無視するような人がいるなら、彼らを愛し、教えていきましょう」。そのまなざしは、優しいものでした。
旧ユーゴスラビアのセルビア出身でオーストリア国籍を持つ浦和のミハイロ・ペトロビッチ監督は、「自分の経験を話せるかもしれない」とゆっくりと語り出しました。
海外で37年間、生活している同監督は、スロベニア、オーストリア、クロアチアなどを渡り歩いてきました。
「差別はどこの国でもあった。私は、セルビアと犬猿の仲にあるクロアチアでプレーしたとき、非情な差別を受けました」と告白します。
同時に「どこにいっても最終的に差別に勝利することができた」といいます。理由は、「どんな人にたいしても、敬意と愛情を忘れずに接してきたからです。それが私の哲学であり、生き方です」。会見場からは、自然と拍手がわき起こりました。
誓い
選手の中では、この問題が起きたとき、即座にツイッターで批判した浦和の槙野智章選手の言葉が、突き刺さりました。
「僕自身もドイツで差別を受けた。僕ら選手もだめなものはだめと発信していかないといけない。だれかが言ってくれるのを待っているのではだめだと思う」。その鬼気迫る思いが、言葉に乗り移っているようでした。
浦和の阿部勇樹主将は、試合前に宣言しました。
「サッカーはスポーツや社会から差別を撲滅する力をもっています。私たちはサッカーを通じて結ばれた仲間とともに差別とたたかうことを誓います」
監督、選手みずからが経験した、世界に広がる交流や友情は、反差別の生きたメッセージになります。
Jリーグや各クラブは、それらを発信する場をつくるべきです。それはサポーターとともに考える機会になるだけでなく、社会を前に動かす、確かな力になると思うからです。
(和泉民郎)