2014年3月19日(水)
主張
サッカーの横断幕
リーグで差別の議論する場を
ごくわずかな人のことと見過ごせない深刻さがあります。Jリーグ・浦和レッズのサポーターが、差別的な横断幕を出した問題です。「JAPANESE ONLY」(日本人以外お断り)との横断幕をスタンドの入り口に掲げたのは3人のサポーターでした。クラブ側は、試合後までこれを放置する甘い対応で、リーグは23日の浦和のホームゲームを無観客試合とする重い処分を決めました。クラブ側も3人のサポーターを含め、所属するグループを無期限入場禁止としています。
スポーツの根本危うく
Jリーグの村井満チェアマンは「まずは問題の本質が極めて重いことだと伝えることから始まる」と語り、断固とした姿勢で臨みました。これは、スポーツのあり方からみても、妥当な判断でした。
Jリーグには多くの外国人選手、監督が活躍し、海外での試合も増えるなど、サポーターも外国との接点が広がっています。その流れの中で考えても、この横断幕の意図するところはあまりに異質で、危うさすら感じさせます。
何より差別は、スポーツの根本を危うくします。人種、宗教、政治的立場などの違いを超えて集い、競うことが、スポーツの大前提です。平等の思想があるから、スポーツは成立し、フェアプレー精神が生まれ、相互理解、平和への貢献につながります。差別は、スポーツの否定に等しいものです。
昨年、Jリーグは規約に「人種、性、言語、宗教、政治…に対する差別を行ってはならない」を盛り込みました。国際サッカー連盟(FIFA)も昨年5月、「反人種差別・差別に関するたたかい」を決議していました。
欧州でも、黒人選手などにたいする、差別的な行為が後を絶ちません。背景には、移民排斥など政治的な風潮がある場合も多いといわれます。だからこそ、それらが表面化するたびに、厳しい処罰が下されています。
今回の一件で、前向きな側面も確認できたように思います。
事件後、浦和の槙野智章選手は即座にツイッターで憤りました。「負けた以上にもっと残念な事があった…。こういう事をしているようでは、選手とサポーターが一つになれないし、結果も出ない」。その後も多くの選手が「差別をなくそう」と呼びかけました。
サポーターも続きました。9日には、J2岐阜で「人種差別に反対」の横断幕が出て、12日にも横浜Mのサポーターが「人種差別にレッドカード」と訴えました。何より今回の事件を世間に知らせ、真っ先にクラブに抗議したのは、浦和のサポーター自身でした。ここに事件を乗り越える、よりどころがあるのではないでしょうか。
みつめ直す機会に
スタジアムは、みんなが応援を楽しむ、自由な空間です。それだけに、自律的な態度、モラルが求められることもまた事実です。差別がどれだけ多くの人を傷つけ、サッカーを傷つけるか。サポーター同士で改めてみつめ直す機会にすべきです。
リーグやクラブが、サポーターや選手とともに議論し、考える場をつくることも一考です。
今回の事件を契機に、よりフェアな意識を広げるJリーグへ。痛苦の経験を前向きの力に変え、その歩みを進めてほしいものです。