2014年3月18日(火)
暮らし クライシス(危機)
就学援助 消費税増税、負担感だけ
迫る消費税増税、切り下げられる社会保障。暮らしクライシス(危機)を追います。
「子どもたちには不自由な思いをさせないようにしたいけど、4月から消費税が上がればどうすればいいのか分からない」―。30歳代の鈴木さおりさん(仮名)=札幌市=はため息をつきました。
30歳代の夫、3人の子どもと借家で暮らしています。自営業で経費などを差し引くと、手元に残るのは年200万円程度。生活は苦しいといいます。「子どもの成長に合わせて洋服を買わなければならないけれど、私たちの分は長い間、買っていません」
子どもの学用品は100円均一の店で、できるだけそろえます。「筆箱が壊れたから新しいものがほしい」と子どもに頼まれても買えずに、友人の子どものお下がりを与えたこともありました。
鈴木さん一家の生活をさらに圧迫しているのは、月3万円以上の国民健康保険料です。支払いが滞りがちになり7割減免の手続きをとりましたが、払いきれません。
「高い国保料の支払いの上、医療費は窓口負担が3割。子どもの医療費は、就学援助を利用しているので中耳炎や虫歯などは無料になるけれど、障害がある次女の通院にかかる月1600円の医療費負担も厳しい」
長女(12)は4月から中学へ進学。入学準備で出費がかさみます。就学援助費で制服代など一部はまかなえますが、支払いきれません。ジャージーの上下とハーフパンツ、学校指定の上靴、カーディガン、かばん、靴…。最低限そろえるだけでも3万円ほど負担しなければなりませんでした。
「国は、消費税を上げて社会保障費に充てると言うけど、私たちの暮らしが良くなるとは感じられない。負担感が残るばかり。就学援助費が増税に合わせて多少上がるのはうれしいけれど…」
4月からの消費税増税に伴い文部科学省は、2014年度の就学援助費の予算額案を13年度比で増額していますが、多くの自治体が据え置きのままにしています。当初は据え置きにしていた自治体に対し、国基準まで引き上げさせる運動が広がっています。
多くの自治体で据え置きのまま
運動で引き上げの例も
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文部科学省が示した2014年度の就学援助費の予算額案は消費税増税に伴い、13年度比で増額していますが、多くの自治体で「就学援助の給付額が据え置きのままである」との声が全国生活と健康を守る会連合会(全生連・安形義弘会長)に届いています。札幌市も当初は据え置きのままでしたが、北海道生活と健康を守る会連合会(道生連)などが粘り強く要請し、支給単価を国基準まで引き上げさせました。
「要請しなければ据え置きのままだっただろう。非常にうれしい」。こう話すのは、道生連の三浦誠会長です。
札幌市は、小中学校の児童生徒13万4932人のうち約18%が就学援助を利用しています(13年5月1日現在)。
議会に陳情届け
道生連は2月21日、札幌社会保障推進協議会とともに同市へ就学援助の支給単価引き上げを要請。市議会にも陳情しました。
就学援助の対象は、義務教育を受ける子どもを持ち、生活保護を利用する「要保護者」とそれに準じる程度に経済的に困窮している「準要保護者」です。
文科省は1月10日付の事務連絡で各自治体の担当者に、就学援助費に対する国の補助金の予算額案で、学用品などの単価を増額することを示しています。(別表)
ところが、札幌市などで学用品などの援助額が13年度と同額のままで国基準に達していません。全生連の辻清二副会長は「多くの自治体が就学援助費の引き上げをしていない」と指摘します。
就学援助の利用率は低所得層の広がりに伴い増加。12年度は15・64%で過去最高となり、1995年度の調査開始以来、17年連続の上昇です。
学校教育法第19条は「経済的理由によって、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない」と規定。就学援助制度は、貧困を連鎖させないためにも欠かせないものです。
自治体間に格差
国は05年度から就学援助の補助金を削減し、準要保護者の費用は用途を限定しない交付税交付金としました。辻副会長は「自治体の財政負担が強まり、自治体間格差が広がっている」と批判します。
10年度から新たに支給品目に加わったクラブ活動費、生徒会費、PTA会費も実施している自治体はわずか12%にとどまっています(全生連調べ)。
辻副会長は「就学援助は、ナショナルミニマム(国の最低生活基準)の一つ。国は補助金を国庫負担に戻すべきだ。その上で、国が示した基準より上乗せすることはあっても、下回るのであれば自治体の責任放棄だ」と指摘。「就学援助費の引き上げを求める運動を全国的に広げよう」と呼びかけています。
(岩井亜紀)
就学援助 経済的に困窮している世帯の小中学生に学用品費などを援助する制度。対象は、生活保護を利用する「要保護者」とそれに準じる程度に経済的に困窮する「準要保護者」です。準要保護者の対象は、生活保護基準を目安に実施する各市町村が設定。要保護者に支給される援助金のうち2分の1は国が、その他はすべて市町村が負担します。自治体によって援助の項目や額が異なります。